『わたしの宝物』美羽や宏樹ら“身勝手な大人たち”による混迷 北村一輝のセリフが心に響く
「あいつらの正解をさ、あんたが決めんなよ」
喫茶店のマスター・浅岡(北村一輝)が真琴(恒松祐里)に言い放ったこの一言に全て集約されるような展開が観られた『わたしの宝物』(フジテレビ系)第6話。真琴のように自分が見えている視界を全てだと決めつけ正義感を振りかざす人間の迷惑さが際立つ回だった。
宏樹(田中圭)が今現在どんなに娘・栞を溺愛していようと、家事にも子育てにも協力的な夫であり父親だろうが、彼がかつて美羽(松本若菜)に対して放った言動や、彼女の心に刻まれた傷は今からどうやったって帳消しにはできない。さらに、美羽の子どもが欲しいという要望には一切耳も貸さなかったのに、フリーマーケットで彼女が生き生きしている姿を見かけるなり独占欲や嫉妬心が刺激されたのか、拒む彼女を押し切って行為に及んだ。全てが頂けないし、無理矢理行為に及んだ事実があったからこそ美羽に托卵の選択肢を浮上させてしまったとも言える。
もちろん美羽も美羽だ。妊娠がわかった直後に冬月(深澤辰哉)がアフリカで起きたテロ事件の犠牲になったというニュースを耳にしていなければ、宏樹とは離婚を決意し、いずれ帰国する最愛の人の帰りを待っていたかもしれない。良くも悪くもあのタイミングで全くそれまで性生活のなかった神崎夫婦にアクシデント的に行為があったこと、冬月が死亡したという誤報が流れたことなど、美羽を托卵の選択肢に導く偶然が重なりすぎた。それに宏樹の希望で専業主婦にならざるを得なかった美羽がシングルマザーの選択肢を取ることは現実的に不可能だった。
美羽が冬月に栞の父親の正体を明かさないのは、冬月のことが大切だからに違いないし、彼を巻き込むことだけは避けたいのだろう。対して、彼女がこの事実を宏樹に言えなかったのは、もちろん最初は彼の子どもとして育てる托卵の選択をし、娘を育て上げることを決意したからには真実は墓場まで持っていくほかなかったのだろう。しかし途中からはそれだけではなかったように思える。栞の誕生を大号泣しながら迎え入れ、真剣に名前も考えて大事に大事に対峙する宏樹の姿を見れば見るほどに、もちろん罪悪感も募っていただろう。そして、どうしてもっと早くに自力で宏樹とこんな関係が築けなかったのかと過去を悔いたことだろう。