『Mr.プランクトン』は1本の壮大なロードムービーのよう ウ・ドファンの“退廃美”に釘づけ
ジェミを演じたイ・ユミは、親を知らず、子供を持ちたいとと望みながらも早期閉経をするという過酷な運命を持つ役を好演してみせた。ヘジョとフンの間で揺れ動く女心と、自分の運命と愛に必死な姿に応援せずにはいられなかった。
また、フンを演じたオ・ジョンセがいるからこそ、この作品が輝いたことは間違いない。『サイコだけど大丈夫』の脚本家との再タッグだけあり、オ・ジョンセ本人がフンのような人なのではないかというシンクロ率100%の姿を見せてくれたように思う。フンは、母を恐れながら、“犬”から“虎”へと変貌し、ついには自由を勝ち取っていく。
そして、本作の演出の見事さにも触れずにはいられない。筆者も含めて、多くの方が、一番心を乱されたであろう、美しい夕日の中でのヘジョとジェミの熱いキスシーン。ヘジョの気持ちを知っていただけに、ようやく……! という胸キュンからのまさかのフン! カメラが引いて、フンがフレームインしてきたときのフンの表情と涙、そして目隠しされて、目の前が暗くなっていく演出のなんたるや……! こんなにも心を自由自在に動かせる演出に脱帽した。さらに、ロードマップ風のオープニングアニメーションをはじめ、エンディングや劇伴、OSTの全てが美しく完璧だ。
物語の中でヘジョは、存在価値があるからプランクトンに生まれ変わりたいと話すのだが、本作を演出したホン・ジョンチャン監督は、「海の中のプランクトンは小さいが、光を出して地球の生命体が生きていける酸素を作り出す」「よく見えないとその存在価値が落ちるわけではない。あなたはプランクトンのように輝く貴重な存在」と言ってあげたい」と本作のテーマと、タイトルに込められた意味を明かしている。
ウ・ドファンがヘジョの退廃美と愛と生への渇望を、イ・ユミが家族への憧憬と悲しみを、オ・ジョンセが名家の箱入り息子の閉塞感と脱皮を、それぞれが旅路を通じて魅せてくれた。キム・ヘスク、イエル、キム・ミンソクら名パイプレーヤーたちの演技にも泣かされた。
感情のジェットコースターに乗り、何度も宙がえりをさせられながら、観終わったあとにはヘジョとジェミ、フンとともに旅をしていたような気がする本作。2024年も残すところ約1カ月あまりとなるなかで、またひとつ傑作と呼べる作品に出会えたことが心から嬉しい。観るものにこれだけ多くのものを感じさせることができる作品を、演者として体験したウ・ドファン、イ・ユミ、オ・ジョンセが、本作を通じて得たもので、さらなる魅力的な姿を見せてくれるのが楽しみでならない。
参照
https://www.maxmovie.com/news/440229
■配信情報
『Mr. プランクトン』
Netflixにて配信中
出演: ウ・ドファン イ・ユミ オ・ジョンセ
制作: ホン・ジョンチャン チョ・ヨン