瀧本美織×玉森裕太×藤ヶ谷太輔×八乙女光『美男ですね』に刻まれた2011年の“奇跡”

『美男ですね』の最高の“軽薄さ”

 物語の大筋に関しても(もっとローカライズして良かったのにとも思うが)オリジナルをなぞり、修道女として修行をしていた美子(瀧本美織)が、ローマ行きを控えた直前に人気バンド「A.N.JELL」のマネージャー(柳沢慎吾)に懇願され、新メンバーに決まった双子の兄・美男(瀧本美織/二役)の替え玉として、男性と偽ってバンドに加わることになる騒動が展開。いわゆる“替え玉”作品となると、替え玉をしていることがバレてしまうことに重きが置かれ、起承転結の“転”としてそれが機能しがちではあるが、本作はそうはならない。早々に替え玉であることが周囲にバレて、それが物語を動かす“承”の要素として機能させていくのである。

 メインキャストにフォーカスを当ててみれば、まず玉森が演じたリーダーの廉は美子の相手役として、彼女が替え玉であることを知り、美子も“知られている”と知った上で関係が構築されていく。ある意味では、替え玉というギミックそっちのけで2人のシンプルなラブストーリーとも見ることができるのだ。神経質でいつも不機嫌そうな廉のキャラクター性もまた、単なる設定に終わらずにストーリーに寄与している点は、確固としたオリジナル版の存在があってこそだろう。最近では穏やかな愛されキャラの役どころが板についた玉森の、こうした若々しくてトゲのある感じは、かえって新鮮に思えてしまう。

 対照的に藤ヶ谷が演じた柊は、いわゆる“かませ犬”ポジションというべきか、誰よりも早く美子の素性に気が付き、それを胸に秘めたまま彼女をそっと優しく支える。トゲトゲしい廉との対称性を考えても、『花より男子』における花沢類のような“白王子”である。そして八乙女の演じた勇気は完璧なコメディレリーフでありつつも、美子を男だと思い込んだまま惹かれていく様は、放送当時と現在ではかなり見え方が変わってくる役どころといえるかもしれない。いずれにせよ、『3年B組金八先生』(TBS系)と『オルトロスの犬』(TBS系)と、影を帯びた役柄が続いていた八乙女に、それらとは正反対のキャラクター性を与えてくれた役柄でもあるのだ。

 テレビドラマは映画以上に“その時代”の、とりわけ流行に強烈に反映される作り込みがされるもの。いかにもビジュアルからオリジナル版に寄せようという感じで作られた突飛なシチュエーションのなかには、ファッションやメイク、振る舞いから価値観に至るまで、2011年当時のカルチャーが存分に記録されている。そしてなにより、作品自体に近年のテレビドラマにはない底抜けの軽薄さ(褒め言葉)があり、こうした作品はもうなかなか作られないだろうなと思わずにいられない。キャスト陣の成長を記録するものとしても、2011年当時のカルチャーの貴重な資料としても、配信サービス上に永続的に残されてくれることを願うばかりである。

■配信情報
『美男ですね』
U-NEXT、TVer、TBS FREEにて配信中
出演:瀧本美織、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)、八乙女光(Hey! Say! JUMP)、小嶋陽菜、六角精児、山崎樹範、清水優、楽しんご、能世あんな、片瀬那奈、井森美幸、柳沢慎吾、高嶋政伸、萬田久子
原作:『美男ですね』(韓国SBS)
脚本:高橋麻紀、山浦雅大
演出:坪井敏雄、平野俊一、大澤祐樹
音楽:市川淳、michitomo
エンディング:Kis-My-Ft2「Everybody Go」
プロデューサー:高橋正尚、加藤章一(協力)
製作:TBS
©TBS ©韓国SBS

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