阿曽山大噴火、『虎に翼』のバランス感覚に感動 法廷を見てきたからわかる男女比の変化も
裁判の傍聴はテレビ報道の“その先”が知れる
ーー法廷ドラマは世界的に人気のジャンルですが、日本の法廷ドラマを観ていて気になることはありますか?
阿曽山:海外のドラマだと、よく裁判長の手元に木槌が置いてありますよね。でも、日本の法廷には木槌はないんです。例えば、先に挙げた『都会の森』というドラマは、すごくリアルに作られていて、法廷の中も、法廷を出た後の東京地裁の廊下もとても忠実にセットが組まれているのに、木槌があって衝撃でした。
ーーリアルさとドラマとしての面白さのバランスは難しそうですね。
阿曽山:個人的には、面白ければリアルじゃなくてもいいじゃんとは思っています。ただ、現実ではあり得ないことが、ドラマとして重要な局面で使われると、「おいおい」と思ってしまいますね。以前放送されていた法廷ドラマで、被告人質問の後に目撃者の証人尋問をやっていて、「そんな反論のできない順番はないだろう」とものすごくイライラしました(笑)。
ーーほかにも違和感を感じる“あるある”はありますか?
阿曽山:よく観るのが、弁護士が「実は現場でこんな証拠を見つけました」と言って、検察官が「そんなものを見つけていたのか」と驚くシーン。逆も然りなんですが、法廷でいきなり証拠を出すって絶対にないんですよ。裁判官に見せる前に、弁護士と検察官で事前に「これ出すんですけど、いいですか」「はい」という話し合いを絶対にしているので、 そこで水戸黄門よろしく「どうだ、参ったか」みたいなことをされると、違和感がありますね。
ーー『虎の翼』は家庭裁判所が物語の中心になりますが、阿曽山さんは家裁に傍聴に行かれたことはありますか?
阿曽山:家庭裁判所も少年事件は非公開ですが、離婚に関するものとか、傍聴できるものは見たことがあります。ただ、基本は刑事事件が中心ですね。
ーー変な言い方かもしれませんが、「これは神回だ」と思った裁判は?
阿曽山:長く追いかけてやっと終わったときですかね。ほとんどが1、2回で終わるんですが、1年くらい長引いた裁判が終わったときは、こちらも「おお」となります。
ーー基本的に同じ裁判を追いかけているのですか?
阿曽山:いえ、同じものはほとんど追いかけないです。ただ、被告人が無罪を主張していると、追いかけたくなります。だって、警察で取り調べをやって、検察で取り調べをやって、検察官がこれは有罪だと思って起訴してるのに、被告人が「やってません」と言うのってよっぽどだと思うんですよ。 第三者視点ですけど、証拠を聞いていても間違いなく有罪でしょうと思う。でもそれが、「あれ、なんか変だぞ。この証拠変だぞ」というのがちょっとずつ出てきて無罪になったりすると、いわゆる「神回」のような感じはしますね。
ーー無罪は滅多にないと言われていますもんね。
阿曽山:そうですね。確率的には99.何パーセントが有罪になると言われていますが、無罪を主張しているものに限れば、6〜7割くらいが有罪なので、そういう裁判を追いかけていれば、たまに無罪判決を見ることはできるんです。それでも、最初からずっと追いかけていて、さらに無罪になると、こちらとしてもアツいものがあります。
ーー『虎に翼』の影響で、今後傍聴する人が増える可能性も?
阿曽山:うーん、どうでしょう。法廷ドラマのヒット作は過去にもありましたが、その影響で増えたということはほとんどないと思います。一回、裁判員制度が始まったときにどっと増えた感じはありました。あとは、諸先輩方からオウム真理教事件の裁判をきっかけに、ものすごく傍聴人が増えたと聞いたことがあります。日比谷公園で1万人以上が抽選に並んだという報道がされていたくらいなので、そこで初めて「裁判って誰でも見られるんだ」と知った人も多いんじゃないかと思います。
ーー海外ではテレビ中継されている国もありますが、日本ではまだまだ裁判が身近ではないのかもしれませんね。
阿曽山:そうですね。やっぱりカメラを入れて、ケーブルテレビで見られるようにしたら身近にはなるんでしょうけど、でも、それも最初だけでみんな見なくなるのかな。傍聴に興味がある人はいると思うんです。ただ、やっているのが平日の10時から17時なので、多くの人は働いている時間帯ですし、見たくても見られない人も多いんじゃないでしょうか。
ーー傍聴の楽しみはどういうところにありますか?
阿曽山:いろいろあるんですけど、例えば新聞を見ると、毎日たくさんの事件が載っていますよね。でも、その後どうなったかってほとんどわからないと思うんですよ。それが、法廷に行くとあの事件の続きが見れる。報道されているのはごく一部なので、実はこんなことがあったんだとか、これはこう裁かれたんだっていうのがわかるのは、楽しみの一つだと思います。あとは、やはりテレビや新聞はどうしても殺人事件ばかり取り上げますが、世の中にはそれ以外の事件もたくさんある。傍聴に行くことで、誰も知らないような事件を知る面白さもあると思います。