『Shrink―精神科医ヨワイ―』は“誠実さ”が詰まった実写化に 現代を生きるすべての人へ
第1話を観て嬉しかったのは、原作の誠実さを損なわずにドラマ化されていたことだ。先述したように、日本の精神疾患への理解度はまだ低い。当事者の辛さを軽視せず、その症状をまざまざと描きながらも、無駄に恐怖を煽る描写は一切見られなかった。その誠実さは「雪村さん、約束します。パニック症の発作で死ぬことはありません」という弱井のセリフでも明らかだ。精神疾患のイメージが芳しくなく、認知度が低い現状を描きながらも、相談に乗ってくれる人や精神科に頼りたくても頼れなかった人が身近にいると描いたことも、当事者に救いの手を差し伸べていたように見えた。
その誠実さは、弱井を演じる中村やひだまりクリニックで働く看護師・雨宮を演じる土屋太鳳、さらにゲスト出演した夏帆の芝居にも感じられる。特に弱井役の中村は、普段よりだいぶトーンを和らげ、精神科医として発する一言一言がどんな意味を持つのか、どのように世間に受け止められるのか、その重みを感じながら慎重に、かつ自然に演じている。一時的ではなく、人生の伴走者として患者に寄り添う精神科医の姿を体現していた。
また、原作における雨宮は、のほほんとした弱井に対して気が強いしっかりものとして描かれているが、ドラマ版では素直さを残しつつも、土屋自身のやわらかさが加わったキャラクターになっている。今作の丁寧な作りは、いまドラマを観ている視聴者だけではなく、いつか今作に出会う人のことまでも考えた“誠実さ”なのだと思った。
ドラマ『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』の放送は全3話。原作のエピソードに対して少ない話数ではあるものの、Prime Videoでの配信も決まり、従来のNHKドラマよりも多くの人に届くことになるだろう。日本は“隠れ精神疾患大国”だという。SOSを出せずに苦しんでいる人たちに、このドラマが届くことを願っている。
■放送情報
土曜ドラマ『Shrink―精神科医ヨワイ―』
NHK総合にて、毎週土曜22:00〜22:49放送【全3回】
NHK BSプレミアム4Kにて、毎週土曜9:25〜10:14放送
原作:『Shrink~精神科医ヨワイ~』原作・七海仁/漫画・月子
脚本:大山淳子
演出:中江和仁
出演:中村倫也、土屋太鳳、井桁弘恵、三浦貴大、竹財輝之助、酒井若菜
第1話ゲスト:夏帆、余貴美子 ほか
第2話ゲスト:松浦慎一郎、土村芳、河相我聞、佐戸井けん太、小林薫
第3話ゲスト:白石聖、細田佳央太、ドリアン・ロロブリジーダ、中島ひろ子、光石研
制作統括:樋口俊一(NHK)、阿利極(AX-ON)
プロデューサー:久保田傑(オフィス・シロウズ)齋藤大輔
写真提供=NHK