『Shrink―精神科医ヨワイ―』は“誠実さ”が詰まった実写化に 現代を生きるすべての人へ
ようやく酷暑が過ぎ去り、秋が近づく気配を感じるようになった8月終わり。ドラマ『Shrink〜精神科医ヨワイ〜』(NHK総合)の放送が始まった。原作は、現在『グランドジャンプ』で連載中の同名漫画(原作:七海仁、漫画:月子)。あらゆる漫画や小説が溢れる中で、個人的には最も実写化してほしかった一作である。現代に生きる多くの人が『Shrink』のような作品を求めていると思っていたからだ。
今作は、精神科医・弱井幸之助(中村倫也)が、新宿ひだまりクリニックで、患者たちに寄り添う姿が描かれている。第1話は「パニック障害」を扱った。昨今は公表する有名人も多く、その名前くらいは聞いたことがあるかもしれないが、実際にどのような人たちが罹患し、どのような症状があるかを正しく理解している人はごくわずかだろう。
そもそも日本では「精神科」や「精神病」自体への理解が乏しいことが、劇中でも語られている。例えば、日本の精神疾患の患者数が約800万人なのに対して、アメリカは約3倍。データ上では4人に1人が精神疾患を抱えていることになる。けれど自殺率に目を向けると、アメリカが20位なのに対して、日本は6位。「Shrink」というスラングが生まれるくらいアメリカでは身近な存在で、失恋したときや上司に怒られたときなど、ほんの些細なことでも精神科に駆け込む習慣が根付いているのだ。
一方、日本では「精神科=特別な人が通う場所」という認識が強い。日常では凄惨な殺人事件の犯人が精神鑑定を受けるニュースが流れ、知り合いが精神科に罹ったと聞けば眉を顰める人もいる。毎クール新しい医療ドラマが放送される中、精神科を題材にした作品が少ないことを鑑みても、その認識がまだ十分ではない現状が浮き彫りになっているだろう。
今作は各話ごとに患者役のゲスト俳優が登場する。今回は原作の第1話に該当するエピソードだが、ドラマオリジナルの設定で、仕事と子育てを両立するシングルマザーの雪村を夏帆が演じた。
ある日、雪村は通勤途中の満員電車で過呼吸を発症してしまう。なんの兆候もなかったが、その日を境に電車に乗れなくなり、密室空間で発作を起こすようになる。病院で検査を受けても、特に異常は見つからない。医師には精神科の受診を薦められるものの、その響きに戸惑う雪村は、友人に勧められた大手メンタルクリニックに足を運ぶ。そのカウンセリングはなんとも義務的で、雪村は(あの医者、一度も私の顔見なかった……)と、不安を拭いきれぬまま、ただ処方された薬を飲む日々を過ごすのだった。
ひょんなことで弱井と再会した雪村は、そのまま新宿ひだまりクリニックへ通うようになる。カウンセリングの結果は「パニック症」。メンタルには自信があったのに……と苦笑する彼女に、弱井は「心が弱いからかかる病気ではなく、脳の誤作動」だと断言する。電車に乗れなくなったことや恐怖を感じるようになったことに対して、なにが理由で、どんな状態になるのかを、きちんと言葉にしていく。
特に印象的だったのは、弱井が宿題として与えた「不安階層表」だ。不安に感じそうなことに対して、10段階で点数をつけて表を完成させる。電車に乗ることが怖いのか、その中でも急行電車が怖いのか、エレベーターなら大丈夫なのか。漠然とした恐怖の原因を可視化することで、予防法と対策を考え、ベイビーステップ(少しずつできることから)で自ら不安をコントロールしていこうという試みだ。