『ラストマイル』は岡田将生の最重要作に 観客の“視線”を導くフィクサーとしての役割

『ラストマイル』は岡田将生の最重要作に

 岡田将生という俳優はデビュー時からずっとすごいのだが、この夏はとくにすごい。

 好評放送中の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)には、途中からの参加ながらすでに作品の中心人物となっており、深夜ドラマ『錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜』(テレビ東京系)でも主要人物のひとりを演じている。そんなところへ、待望の映画『ラストマイル』が公開。思い切っていってしまおう。エンタメファンにとっては、“岡田将生の夏”なのである。

 『ラストマイル』は、日本の“物流”をモチーフにしたサスペンスだ。流通業界最大のイベントである「ブラックフライデー」の前夜、世界規模のショッピングサイトの関東センターから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがて連続爆破事件へと発展し、日本中を恐怖の渦に陥れることとなる。岡田が演じるのはこのセンターのチームマネージャー・梨本孔。入社2年目の彼は、センター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)とともに、事態の収拾に奔走する。

 梨本は基本的に冷静で淡々とした性格の持ち主で、どことなく品がある人物だ。しかし、かつてはブラック企業に勤めていた経験があるらしく、とにかく「現状を維持すること」を望んでいる。巨大物流倉庫のチーフマネージャーとは大変な職業だろう。ひとつの判断、ひとつの指示のミスが、物流に大きな影響を与えかねない。それは社会の動きを止め、企業の損失を生み、自らの首を絞めることになる。だから冷静に、淡々と、日々の業務をこなす。梨本のキャラクターは、流通業界の仕組みが反映されたものだともいえるのだろう。

 このあたりの岡田の表現とポジショニングは的確だ。準主役にあたる役どころでありながら、ただただ物語の世界に生きる者のひとりに、巨大物流倉庫で働く者のうちのひとりに、彼は収まっている。梨本は特別に個性的な人物だというわけではない。だからなのか、岡田は多くのシーンでその中心に立ちながらも、あまり前に出ることをしない。梨本孔というキャラクターを観客に印象づけようなどとはしないのだ。あくまでも流通業界の“裏方”の体現者であろうとしているかのようである。

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