『クレヨンしんちゃん』3DCG化は何をもたらしたのか “デフォルメ”の魅力を見事に立体化
2Dに3Dの魅力を上乗せする努力
ただ、一方で2Dの魅力を表現したいだけなら、2Dで作れば良い。3DCGを導入するからには、2Dでは実現の難しかったことにも挑まねば意味がない。制作陣がそのことに自覚的なのは、冒頭のしんのすけとみさえの追いかけっこのシーンでわかるようになっている。ここでは逃げるしんのすけとカメラが3Dの立体的な空間を所せましと動き回る様を見せて、3Dだからできる表現を観客に伝えている。
そして、本作で、3Dならではの表現力が最も発揮されたのは、終盤の遊園地を舞台にしたスペクタクルシーンとなるだろう。ここでモンスター化した非理谷と、しんのすけが超能力で操るカンタムロボとの戦いのダイナミズムは、3Dでなければ難しかったと思われる。このシーンは、従来の『クレヨンしんちゃん』にはあまりなかったタイプの見せ場と言える。ここでは、遊園地のアトラクションも巧みに利用しつつ、上に下に、右に左に縦横無尽に空間を駆使してキャラクターもカメラも動き続ける。
こうした派手なアクションシーンでは、近年の手描きアニメでも3Dレイアウトを下敷きに作ることが多くなっており、2Dと3Dの表現の違いの垣根も崩れてきているが、こうしてダイナミックにカメラとキャラクターを動かせるという点が3Dの利点として認識されている。
これまでの劇場版の『クレヨンしんちゃん』シリーズも、ダイナミックなアクションを展開することはあったが、3Dによって一味違うリアリティのある感触をもたらすことになった。物語が現実社会に対する言及が多々ある点も、立体感と実在感を伴いやすい3D向きだったと言えるかもしれない。
馴染みのあるキャラクターを3Dで表現することによる新鮮さと、従来の2Dの特徴を合わせた上で、適切なバランス感覚で映像化したと言える作品だ。2Dの魅力を3D化すると、その魅力が当たり前ではないことに気が付くし、さらには3Dだから可能な表現も映像を魅力的にすることがよくわかる作品だ。
■放送情報
「新作映画公開記念『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』特別編集版」
テレビ朝日系にて、8月4日(日)10:00~11:45放送 ※一部地域を除く
原作:臼井儀人(らくだ社)/『月刊まんがタウン』(双葉社)連載中
監督・脚本:大根仁
声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ
声の特別出演:松坂桃李、空気階段、鬼頭明里
主題歌:サンボマスター「Future is Yours」(ビクターエンタテインメント)
製作:しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会
©臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会