『ゴールデンカムイ』ファン必見! 『プロミスト・ランド』でリアルな“熊撃ち”を追体験

『プロミスト・ランド』マタギとシンクロする

 今年度の話題作『ゴールデンカムイ』を観て血がたぎった方は、YOIHI PROJECT第2弾作品『プロミスト・ランド』を観た方がいい。きっと深く刺さるはずだ。もう一度、血がたぎるはずだ。『ゴールデンカムイ』には名シーンが多かったが、今でも頻繫に思い出すのは熊絡みのシーンである。熊に引っ搔かれて顔の皮がベロンとなるシーンは、時折夢に見る。

 今作『プロミスト・ランド』は、「熊撃(ぶ)ち=マタギ」の物語だ。『ゴールデンカムイ』にも、谷垣源次郎(大谷亮平)という元マタギの軍人が登場する。無骨で不器用ながらも、誠実で義理堅い好漢だ。筆者はこの谷垣が大好きなので、マタギという生き方に深い興味がある。だからこそ今作を観るのが楽しみだったし、観たら刺さって抜けなくなった。

 今作の主人公は、信行(杉田雷麟)と礼二郎(寛一郎)という2人の若きマタギである。寛一郎は『せかいのおきく』(2023年/YOIHI PROJECT第1弾作品)、杉田雷麟は『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(2024年)での好演も記憶に新しい。両作とも彼らの役は純朴な青年だったが、今作の彼らは「熊撃ち」である。180度違う鋭利な彼らにも、注目してほしい。

 主人公の1人・礼二郎が、今作のテーマとなるようなセリフを吐く。

「人は、本当にやりたいことをやるようにできている。本当に願ったら、必ずそうなっちまうもんだ」

 この言葉は青臭い理想論であり、そうであればいいなという願望だ。それにしても、昏さをたたえながらも、なんて綺麗な目をしているんだ礼二郎は。このセリフも、そんな綺麗な目で言われたら何も言い返せない。

 やりたいことをやらなければ、ある属性である自分にこだわらなければ、そして、その属性であることを否定されてしまったら、途端に生きていけなくなる種類の人間がいる。それは、物書きであったり、絵描きであったり、演者であったり、歌い手であったり、戦う人であったりだ。礼二郎にとっては、「檜原の熊撃ち=マタギ」であることが、そのこだわるべき属性なのだろう。

 それらの属性は、得てして完全な生業にはなりにくいものであり、マタギも例外ではない。物語の舞台となる1980年代前半時点で、すでにそれ1本で食っていける仕事ではなくなっている。仲間のマタギたちも農業や畜産業との兼業だし、礼二郎も普段は庭師だ。もう1人の主人公・信行が、礼二郎に吐き捨てる。「もうマタギなんてどこにもいない。職業を聞かれて熊撃ちなんて答えたら、頭がおかしいと思われるぞ」。

 今作の監督・飯島将史が撮ったドキュメンタリー『MATAGI -マタギ-』(2023年)においても、老年のマタギが「今はもう趣味だからね。生活かかってるわけではないからね」と寂しそうに語る。だがそれでもなお、「命を奪うことでしか我々は生きていけない」とも答える。礼二郎も、「俺は檜原の熊撃ちだ。生まれた時からそう決まっている」と訴える。

 彼らは、殺生がしたいわけではないと思う。だからこそ、「熊は山の神からの授かり物」という考えのもと、殺した熊にも深く頭を下げ、最大限の敬意を払う。それでも彼らは、熊を撃つために山に入る。それが彼らの存在証明であり、「本当にやりたいこと」だからだ。礼二郎の横顔は、悩める芸術家にも見えるし、ストイックなボクサーのようでもある。例え結果的に非生産的な行動であろうとも、その衝動を抑えきれないタイプの人間なのだろう。

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