山田裕貴、“二刀流のヒーロー像”を成立させた強み 『Ultraman: Rising』声優の必然性

山田裕貴、『ULTRAMAN: RISING』声優の必然性

 さらに、山田の経歴を振り返ると“ヒーロー”という共通点も浮かび上がってくる。山田の俳優デビュー作は、特撮テレビドラマ『海賊戦隊ゴーカイジャー』。本作で山田はジョー・ギブケン/ゴーカイブルー役として、メンバー随一の剣の実力を持つ存在として活躍した。

 2012年に公開された『仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦』では、仮面ライダーへの変身も経験している。その後、第96回アカデミー賞でアジア映画史上初となる視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』では、戦後の荒廃した日本に現れたゴジラに立ち向かう新生丸の船上員・水島四郎役で出演。こちらは変身することはなかったが、熱い思いでゴジラに対峙する若者を好演した。

 超一流プロ野球選手にして、地球を守るヒーローであるウルトラマンという役は、山田のこれまでのキャリアと符合する部分が多いことは、キャラクターを表現する上ではアドバンテージになる。

 しかも、サトウ・ケンは、大スターである立場から、虚勢を張り周囲を顧みないような行動をとってしまいつつも、心の芯に持つ思いは金や名声よりも、“父親に関心を持ってほしい”という小さな思いを持つ人物。その辺りも主演として作品を引っ張りながらも、常に謙虚で周囲への感謝を忘れず、性格俳優としても高い評価を受けている山田には適役とも言える。

 劇中、サトウ・ケンは、常に葛藤との戦いだ。スーパースターとして求められること、父に認めてもらいたいという欲求、ひょんなことから“敵”であるはずの赤ちゃん怪獣の養育を任されるという予想さえしない事態への対応……。

 その都度、自身の置かれた立場を客観的に考える思考と、感情的になってしまう人間臭さとのせめぎあいを見せるサトウ・ケン。物語の大きなテーマである「調和を見つけること」への理解も、キャラクターを演じる上で大きなカギとなるが、山田は見事に役を理解し、演じ切っている。

 日本を舞台にした物語を構築したシャノン・ティンドル監督、ジョン・アオシマ共同監督は、特別上映会イベントで山田を含む日本語吹替え版声優を務めた面々に「作品を一つ上のレベルに引き上げてくれた」と話していた(※)。

 プロの声優の匠の技術と演技力が、多くのアニメーション作品のクオリティを上げていることは間違いのない事実だが、本作のサトウ・ケンと山田とのリンクが、キャラクターに説得力を持たせているという意味で、シャノン監督の言葉通り、山田の起用はまさに“適任”だったと言えるだろう。

参照
※ https://m-78.jp/news/post-7112

■配信情報
『Ultraman: Rising』
Netflix にて世界独占配信中
監督:シャノン・ティンドル
共同監督:ジョン・アオシマ
脚本:シャノン・ティンドル、マーク・ヘイムズ
プロデューサー:トム・ノット、リサ・プール
日本語吹替え版キャスト:山田裕貴(サトウ・ケン役)、小日向文世(サトウ教授役)、早見あかり(ワキタ・アミ役)、立木文彦(オンダ博士役)、恒松あゆみ(ミナ役)、桜井浩子(アミの母親役)、青柳尊哉(アオシマ隊員役)ほか
オリジナルソング:Diplo、オリバー・ツリー、アリシア・クレティ
制作会社:円谷プロダクション、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)
©円谷プロ

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