『岸辺露伴は動かない』シリーズの集大成となった「密漁海岸」 “次回”も傑作間違いなし!
鮑の密漁のために露伴とトニオが海岸へと出ていく後編では、水中での撮影チームを新たに迎え入れ、実際の海でのロケと潜水用のダイビングプールで撮影した海中でのシーンが見ものだ。水深が10メートルはあるプールで、高橋は3メートルから5メートルぐらいの深さまで潜り、3kgはある重りを鮑の裏側に接着剤でみっちりと付け、自身が本当に沈めるか調整していったという。鮑だけでなくその天敵として「ヘブンズ・ドアー」をかける「タコ」を含めたCGを使わないどこまでもアナログにこだわったチームとしてのスタンス、月明かりの岩山に現れる無数の人骨、古文書を読ませておびき出して殺す「罠」といった先人たちの「知恵」や「誇り」といった要素は、『岸辺露伴は動かない』シリーズ全体に通底している「妖怪」「日本神話」「怪異」といった部分にリンクし、菊地成孔/新音楽制作工房の音楽が、その恐怖を増幅させている。「密漁海岸」は、これまでの経験から培った芝居や技術、演出、あらゆる要素を詰め込んだ集大成と呼ぶべき傑作であるが、『ルーヴル』での撮影から生まれた手応え、露伴の言う「確信めいたもの」がチームとして「密漁海岸」に挑戦する自信に繋がっていったのだろう。
シリーズ恒例の男A(中村まこと)、男B(増田朋弥)を相手に露伴の「ヘブンズ・ドアー」を説明するアバンでは、露伴が「味」を確かめるシーンがある。これは『ジョジョ』で露伴が初登場した際に、ペン先で殺した蜘蛛に対して「味もみておこう」とペチャペチャ舐める姿を思い出させる場面だ。脚本・演出を担当した渡辺一貴監督が言うには、この露伴の行動は脚本には存在せず、撮影の前日に高橋が打ち合わせで提案してきた半分アドリブに近い露伴としての動きだという。結局、露伴は取材のために探していたモクズガニをもう一度見つけることはできず、「味」を確かめたのはゴカイである。
そして、ファンを大いに賑わせているのが、京香の「『食』をテーマにした怪奇ミステリー。舞台は、美食の国イタリアですよー!」「次の取材旅行はこれで決まりですね」というセリフだ。過去には「ジャンケン小僧」で「ルーヴル美術館」と京香がつぶやき、映画公開が発表された経緯があることから、次回のエピソードはイタリアが舞台の「懺悔室」、もしくは「岸辺露伴 グッチへ行く」が濃厚か。
NHK的には当然前者になる。「懺悔室」は『岸辺露伴は動かない』シリーズの第1作目のエピソードであり、そのタイトルが付けられた元となる、露伴が「動かない」、ストーリーテラーとしての役目を持つ話。その大部分に露伴は登場せず、「密漁海岸」とはまた別の実写化の難しさが挙げられるエピソードだ。渡辺監督に京香のセリフの意図と次回作について尋ねたところ、「トニオがイタリア人ということで言ってるので。一つひとつできることをやりながらという感じですかね」とのこと。ちなみに、「ハワイ島の溶岩を取材しに行くエピソードはどうですか?」と聞いてみると、渡辺監督は「いいですね」と笑顔で返答してくれた。
■配信情報
『岸辺露伴は動かない』第9話「密漁海岸」
NHKオンデマンド、NHK+にて配信中
出演:高橋一生、飯豊まりえ、蓮佛美沙子、Alfredo Chiarenzaほか
原作:荒木飛呂彦
脚本:渡辺一貴
脚本協力:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
演出:渡辺一貴
制作・著作:NHK、NHK エンタープライズ、ピクス
写真提供=NHK