『虎に翼』共亜事件のモデル? 昭和初期の日本を揺るがした「帝人事件」を解説

 これらの背景から、この「帝人事件」は裁判所が公正な判断をし、正義や商習慣を守った象徴的なものとして捉えられることがある。寅子はかつて、法律を盾や傘、毛布にたとえて「弱い人を守るもの」と表現した。「帝人事件」はまさに、法律やそのプロである人たちが、無実の罪を着せられた弱い立場の人たちを守り、盾になった事件と言えるのではないだろうか。現実の世界でもそんなことが起こっていた時に法律を学ぶ寅子たち。改めて、極めて専門的な知識を身につける人たちがいることの重要さを考えずにはいられない。

 『虎に翼』ではまだ、女性たちの立場や権利が蔑ろにされていることを見せつけられるような描写がある。その度に、母・はるの「あなたはやっと地獄の入り口に立っただけ」という言葉が頭の中に響いてくる。法律を学んでいる最中である寅子は、時に何もできないという無力感に襲われることもあるだろう。でもそれがいつか糧になる。そう信じてしっかり自分を見失わずに歩んでいってほしい。

参考
※『昭和ニュース事典第5巻 昭和10年-昭和11年』本編p422 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
※ 松浦正孝『「帝人事件」考― 戦前日本における財界の組織化と政界・財界関係―』年報政治学(The annuals of Japanese Political Science Association)日本政治学会編 1995年
※ https://www.jstage.jst.go.jp/article/nenpouseijigaku1953/46/0/46_0_3/_pdf/-char/ja

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