松下優也、“ジョジョ”は運命の役柄に 『ジョジョの奇妙な冒険』を成功に導いた“黄金の精神”

松下優也、“ジョジョ”は運命の役柄に

 松下優也にとって、大きな節目となる作品が4月14日(松下の千穐楽は4月13日)に彼の故郷・兵庫で大千穐楽を終えた。ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』である。

 結果的にミュージカル“ジョジョ”は多くのファンから称賛を浴びる作品となった。それは荒木飛呂彦による原作を「ミュージカル」としての表現に見事落とし込んだ長谷川寧の演出・振付、老齢のスピードワゴン(YOUNG DAIS)を物語の語り部に置き、この作品を「〈謎の石仮面〉にまつわる物語」であり「黄金の精神の物語」とした“ジョジョ”ファンをも唸らせる脚本・歌詞を書き上げた元吉庸泰、「ズキュウウウン」といった“ジョジョ”の「擬音」をバンドの生演奏という形で表現したバンマス蔡忠浩が率いるバンドメンバーとドーヴ・アチア(共同作曲:ロッド・ジャノワ)による音楽のクリエイティブチーム。そして、松下を筆頭とするキャストの面々による功績にほかならない。観る者に「勇気」を与えてくれたことに、まずは敬意を表したい。

 松下が演じたのは、主人公のジョナサン・ジョースター。ジョースター家の一人息子で通称“ジョジョ”と呼ばれる英国貴族だ。正義感に溢れていて、ピュアで真面目。そんな紳士たる“ジョジョ”が、宿命のライバルであり悪の帝王、ディオ・ブランドー(宮野真守)との運命の出会い、そして策略によって追い詰められていくことにより、大きく成長していくこととなる。劇中にもセリフとして登場する「世界が一巡」するまで、脈々と受け継がれていく血統の源流であり、始まりの物語だ。3時間半余りの舞台の中で、松下は“ジョジョ”として緩やかにその「成長」を体現していく。

 エリナ・ペンドルトン(清水美依紗)と恋に落ちる序盤の幼少期は、そのピュアさが前面に出た“ジョジョ”としての芝居。ちょっと青春すぎやしないかと観ているこちらが赤面しそうになっているところに、「何をするんだァーッ!ゆるさんッ!」の名言がやってくる。愛犬ダニーを蹴られ、“ジョジョ”がディオに初めて敵意を向ける、“ジョジョ”を代表するセリフだ。動揺をしている“ジョジョ”として、さらりと「何をするんだァーッ!」をセリフとして処理し、「ゆるさんッ!」に重きを置く。初めて拳を握ったんじゃあないかというような純真さを持ったファイティングポーズは、後々にウィル・A・ツェペリ(東山義久/廣瀬友祐)から波紋法を伝授した頼もしき姿から逆算して考えるとそのコントラストが見えてくる。

 今回の“ジョジョ”を特異な作品としているのが、そのミュージカルシーンにある。例えば〈謎の石仮面〉を被るディオが放つ名セリフ「おれは人間をやめるぞ! ジョジョーッ!」をあえてミュージカルナンバーの中に落とし込むことにより、実写として自然な流れで観ることができる印象を受けた。それは本作には出てこないがファンから圧倒的な支持を受けるポコのセリフ「明日って今さ!」をスピードワゴンがラップのリリックに引用していたりと、粋な原作愛へと昇華することにも成功している部分だ。

 松下においては切り裂きジャック(河内大和)へと打ち込む必殺技「山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)」がその一つに挙げられる。そもそも松下の身長180cmという身体の大きさ、加えて趣味がキックボクシングということは今回“ジョジョ”を演じる運命だったようにも思えてくるが(過去にはミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』への出演もある)、ソロアーティストとしての歌唱力、さらに数々のミュージカル経験は、先述した「ドライブ」部分の力強いロングブレスのようなミュージカルシーンにてありありと発揮されている。人間を超越し吸血鬼となったディオとの最終決戦を経て、エリナとの新婚旅行中にディオたちから襲撃を受けるミュージカルシーンでは、ここまで3時間近く舞台に立ち続けてきたとは到底思えない、むしろさらに声が出るようになっているのではないかと思えるほどの絶唱は圧巻。だからこそ、静寂の中、ディオの背中で絶命していく松下の芝居は胸を打つものとなる。

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