『不適切にもほどがある!』市郎が反論できない姿を描いた意義 的確で重い“世間”のリアル

『ふてほど』的確で重い“世間”のリアル

 令和にタイムスリップしてきた昭和の体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)の不適切な暴言と行動が巻き起こす騒動を描き、話題沸騰のドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。第8話はこれまでとは違う苦い物語となった。

 テレビ局のカウンセラーとして働く市郎は、入社7年目のアナウンサー・倉持猛(小関裕太)から相談を受ける。

 倉持は周囲から期待される若手だったが、女性アスリートとの密会不倫騒動を起こしたことで仕事から外されていた。長い謹慎を経て、やっと仕事に復帰できるはずだったが、リスクマネジメント部の部長に新しく就任した栗田一也(山本耕史)に復帰を白紙に戻されていた。

 不倫で3年も閑職に追いやるのはパワハラだと言う市郎の意見を聞いた栗田は、早朝の番組のレポーターとして倉持を復帰させる。しかし番組を観た視聴者が批判したことで、ネットは炎上し、倉持は激しいバッシングを浴びることになる。

 いつもの流れなら、批判を恐れて自主規制に走るコンプライアンス部の栗田と市郎の対決となるのだが、今回、市郎が向き合った相手は、不倫をした倉持を許さない世間そのものだ。

 観ていて胃が痛くなるのが、ネットの炎上がどのように広がっていったかという経緯を説明する場面。

 復帰した倉持をSNSで批判したコメントはわずか2件だったが、その意見を報じたWEBライターのこたつ記事を読んだ人々がさらに批判を投稿。その批判意見を元に別のこたつ記事が書かれ、記事に対するコメントに共感を示すコメントが2万7千件も寄せられる。

 コメントは「番組を観てないけど」という前置きがあるものがほとんどだった。しかし「テレビが向き合う相手は視聴者じゃない。観てない連中なんです」「だから不毛なの。観る人はまだ好意的、観ないで文句言う人間には最初から悪意しかない。これがバッシングの実態です」と栗田は言う。

 さらに追い討ちをかけるのが、番組スポンサーの商品であるビーフンの不買運動がSNSで起こりかけており、スポンサー各社から営業にクレームが来ると言われる場面。

 「ビーフンなんて食わなくても死なないよ」と市郎がいつもの不適切発言をおこなうと、即座に「あくまで個人の見解です」というテロップが入るため、思わず笑ってしまうのだが、スポンサーの意向が番組の存続を左右するため、批判する側もそこを狙うという理解が今は完全に共有されていることに背筋が寒くなる。

 SNSの批判的な意見と、そのコメントをまとめただけのコタツ記事が共犯関係を結ぶことで炎上が広がり、最終的にスポンサー企業に対する攻撃に向かうという流れは実に的確で、WEB媒体でドラマ評を書いている立場としては、自分もその構造の中にいることを思い知らされ、いたたまれない気持ちになった。

 鋭い社会風刺が「お客さま」の視聴者にも容赦なく向けられるのは、作り手の誠実さの表れであり『不適切にもほどがある!』を楽しんで来た視聴者として、その痛みも含めて受け止めたいと思う。

 むしろ同情してしまうのは、番組を観ずにSNSで批判している人々に対する配慮まで作り手が求められている現状で、これはあまりにも理不尽である。

 匿名で批判する無数の人々に対して、まともに相手をしても仕方ないというのは、2024年にSNSを使っている現代人なら、ある程度は共有されている考えだろう。

 だから、市郎の意見はテレビ局の人にも届かない。それは「たった1回の過ちも許されない。そんな世の中、間違っている」と言った後、市郎が歌おうとしても誰も乗っからずに、一人置き去りにされる姿に現れている。

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