『ブギウギ』柳葉敏郎の「父ちゃんブギ」が胸に響く 最後まで“笑い”に満ちた梅吉の人生
梅吉(柳葉敏郎)危篤の報を受けて、スズ子(趣里)は、愛子(小野美音)を連れて香川へ里帰りした。『ブギウギ』(NHK総合)第110話で、病床の梅吉にスズ子は語りかける。
松吉(木内義一)やユキ(沢暉蓮)は、元気だった頃の梅吉が、地元の人たちの写真を撮って喜ばれていたと話す。アルバムをめくっていたスズ子は、水着姿の女性の写真を見つける。スズ子に問いただされ、取り乱す松吉たち。どうやら梅吉は、写真館の仕事のかたわら、海水浴に来た女性たちのピンナップを撮って販売していたらしい。
女性たちは喜んでモデルになったとのことだが「どんなに偏屈な大人でも泣いとる子供でもな、梅吉さんがカメラを向けると不思議にええ笑顔になるんよ」とまじめに弁解するあたり、親族も梅吉の人柄に免じて目をつぶっていたと察せられる。
これまでの110回の放送で一番リアクションに困った。笑って済ませることもできるが、下手をすればハレンチな挿話になりかねない。この後の重い展開を見越してバランスを取ったとも考えられる。一面的ではないのが人間であり、人生の酸いも甘いも嚙み分けた梅吉を、真面目一辺倒の道徳的に正しいキャラクターで終わらせない、という作り手の意志が伝わってきた。
しっかり笑いを取った後に、親子の深い縁が描かれるのも本作ならではだ。枕元でスズ子は梅吉に話しかける。血のつながりがなかったことを「いつか本当のこと言うてくれると思てたけど、話してくれへんかった。何で言うてくれへんねん思うたこともあった」とつぶやくスズ子に、起きていた梅吉は「スズ子はわしとツヤちゃんのほんまの子やけん。何も言う必要ないやろ」と返した。
本当の親子ではないことを黙っていたことを、スズ子は「お父ちゃんとお母ちゃんの優しさやったんや」と述懐する。一方で、梅吉も「知らんふりして、わしらを親にさせとってくれた」とスズ子を思いやる。たった二人、残された父と娘は、長い年月をかけて愛情で結ばれた絆を確かめ合った。