スピルバーグからの影響やVFX、AIの話題も 山崎貴、ハリウッドで『ゴジラ-1.0』を語る

山崎貴、ハリウッドで『ゴジラ-1.0』語る

 2023年12月1日に北米で劇場公開された『ゴジラ-1.0』は世界興収1億ドルを突破。さらに、北米での爆発的な人気によって日本を含む世界興収よりも北米興収が上回り、非英語映画としては『グリーン・デスティニー』(2000年)、『ライフ・イズ・ビューティフル』(1997年)に次ぐ歴代3番目の興行成績を収めている。1月22日にノミネーションが発表された第96回アカデミー賞の視聴効果賞に日本作品として、そしてゴジラの70年の歴史で初めて候補入りし、受賞の機運も高まっている。山崎貴監督が監督・脚本・VFXスーパーバイザーを務め、監督と視聴効果を兼任し同部門にノミネートされたのは、『2001年宇宙の旅』(1969年)のスタンリー・キューブリック以来だという。

 昨年末に視聴効果部門ショートリストの10作品に入り、1月にはベイクオフ・イベント(プレゼン)を行った山崎監督および白組のVFXチームは、2月に入り精力的にFYCイベント(アワード用イベント)に登壇していた。その中から、ハリウッドにあるジャパン・ハウス・ロサンゼルスで行われた山崎監督と、634万人超のフォロワーを持つVFX解説系YouTuberグループのCorridor Crewのピーター・フランスとのQ&Aを再録する。

 Corridor Crewは昨年12月の『ゴジラ-1.0』劇場公開時にも山崎監督にヴァーチャルインタビューした動画をアップし、現在までに約162万回視聴されている。

 その中で、自身もVFXアーティストとして『サタデー・ナイト・ライブ』などを手掛けるピーター・フランスは、自他ともに認める“ゴジラファン”として、『ゴジラ』の特撮および和製VFXの特異性について解説していた。映画関係者やVFX関係者が多く集まった聴衆からは、イベントの前日(2月15日)にOpen AIが初公開した「Sora」のAI生成映像についての質問も飛び出した。

『ゴジラ-1.0』を“3回観た”スピールバーグとの交流に感動

(左から)ピーター・フランス、山崎貴

ピーター・フランス(以下、フランス):『ゴジラ-1.0』を劇場で観て圧倒され、そして2回泣いてしまいました。自分もVFXをやっているので、こういう映画を観るとVFXの効果や出来に気を取られて集中できないものですが、今作は物語にのめり込み、山崎監督が作り上げた世界を満喫しました。この映画が大ヒットしていることも当然だと思います。さて、大注目を浴びているこの数カ月はどんな日々だったのでしょうか?

山崎貴(以下、山崎):2カ月ぐらい前までこんな状況になるとは全く想像してなかったものですから、すごく嬉しい混乱のなかにいます。今、「これは夢だよ」と言われてもそんなにビックリしない。「だよね〜」っていう感じ(笑)。

フランス:スティーヴン・スピルバーグがこの映画を3度観たことが大きな話題になっています。

山崎:先日、オスカーのノミニーランチョンという、お昼ごはんを食べながらいろんな人たちと会うようなパーティがあったんですが、その時も(隣にいる)通訳のマイキーが一緒で、「あそこにスピルバーグがいるよ」って言われて。「いや、いるわけないでしょ」と言ってたんですが、「絶対そうですよ。行きましょう」って言って見に行ったら本人だったという。スピルバーグが違う人と話してる後ろでずっと“話したいんですけどオーラ”を出していたら気付いてくれて。あの、これ(ゴジラのフィギュア)を持ってたんですね。そうしたら「ああ、ゴジラの監督か!」と認識してくれて、「3回観たんだよ!」って。1回は自宅でスクリーナー(試写リンク)を観て、すごく良かったからその後IMAXのでかいスクリーンで観て、それからドルビーでもう1回観たんだ、と。その言い方からすると本当に3回観たらしいというリアリティがあって。僕にとっては神様の1人なんで、ちょっと頭が混乱しましたね。今目の前にスピルバーグがいて、僕の映画を3回も観たと言って誉めてくれているという状況が、もう現実のものとは思えなくて。水のエフェクトを作った若い野島(達司)くんを紹介したら、スピルバーグが「あの水のエフェクトがすごい良かったんだよ」と言って、一緒に写真を撮ってくれて。野島くんの人生のピークは、多分そのときに訪れてしまったという(笑)。興奮するひとときでした。本当にありがとうオスカー、ありがとうゴジラですね。これもゴジラが見せてくれた風景の一つだと思います。

フランス:あなたの作品において、スピルバーグ監督から受けた影響はありますよね。例えば『ジョーズ』とか……?

山崎:ああもう、すごくたくさんあります。『ジョーズ』の影響は認めないわけにはいきませんし、あと『宇宙戦争』がすごく好きで、『宇宙戦争』の敵は昼間に出てくるので、ゴジラも昼間に出したいなと思いました。若い頃のゴジラが出てくるシーンは、やっぱり『ジュラシック・パーク』になってましたね(笑)。

The Visual Effects of Godzilla Minus One

フランス:このビデオには、信じられないようなテクニックやアイデアがたくさん映っています。多くの創意工夫があり、特にカメラを動かし、実際に物体が動いているように見せるトリックは天才的だと思いました。この映画でのVFXのさまざまな側面のうち、どこがアカデミー賞のノミネートにつながったと思いますか?

山崎:うん……そうですね、製作費がないのに頑張ったことじゃないでしょうか(笑)。昔のCGがなかった時代は手作りの部分がすごく多くて、多分アカデミー(会員)で投票してくれる人たちはそういう時代の経験をしてるんじゃないかなって思うんですよ。だからちょっと懐かしかったんじゃないかなと思ってます。

フランス:なるほど! 興味深いです。では、限られた予算でこのような壮大なスケールの映画を作る上で、最も困難だったことは何ですか?

山崎:日本では普通より予算がある方なんですけどね。いつも「無茶をやろうとしている」「やろうとしていることが予算内でできるかどうかわからない」って言われながらずっと作ってきたので。一番大きいのは、さっきビデオでも出てましたけど、僕はずっとVFXの現場にいるので、チェックが早いんですよ。ちょっと違ってたら「そっちじゃない」ってすぐ言えるし、監督兼VFXスーパーバイザーなので、僕が思ったものがそこにあれば、それでOKなんです。いろいろなことが非常に効率的に進んでいるのは大きいんじゃないかと思います。

(左から)ピーター・フランス、山崎貴

フランス:大きな予算をかけたハリウッドのスタジオ作品では、監督とVFXスーパーバイザー、VFXチームの間に大きな断絶が生じることもあります。山崎監督が両役を担うことで、できることの可能性が広がったのでしょう。さらに、あなたは脚本家も兼任していました。どうやってバランスを取るのでしょうか?

山崎:脚本家と監督とVFXスーパーバイザーは、仕事する時期が完全に分かれているので、ジョブチェンジしてるだけですね。だからそんなに大変っていうことはないんですけど、一番の問題は監督している時は脚本の問題点がすごく見えるので、「この脚本誰が書いたんだろう」って思うんですが、自分なんですよね(笑)。VFXを始めると、監督がいい加減に撮ったシーンにすごくイライラしたりする。「これ撮ったやつ誰だ?」って、自分なんですよ(笑)。

フランス:誰も責めることができない(笑)。ビデオの中で、あなたのチームがVFXのプロセスをどのように合理化し、パイプラインの非効率な部分を取り除いたかについて語られていました。そのプロセスについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

山崎:普通、かなりの大作映画だとパイプラインを使って担当を分けて作業するけれど、うちの会社(白組)はだいたい1人で、ワンカットを仕上げます。だからモデリングもやってアニメーションもやって、ライティングして最終的な画を作るみたいなことを、1人ないし、2人ぐらいで担当することが多いです。(途中で)誰かのせいにできないので、非常に効率的かなと思います。ずっと同じチームでやってるので、僕はどのぐらいのことを要求するか、どんな画が好きかっていうのが本当にツーカーでわかっているので、あがってくるものに「いいじゃん」っていう感じになるんじゃないかと。もしかしたら我々のチームしかできない方法かもしれないけど、1人でワンカットを最後まで仕上げるやり方がいいのかもしれないです。さっき紹介したスピルバーグの前で人生のピークを迎えてしまった野島くんは、もともとコンポジター、合成する人として入社したんです。でも、趣味で水(の映像)を作る、水のシミュレーションが趣味なんですって言うから、ちょっと見せて言ったら、とんでもなく素晴らしいシミュレーションを作っていて。「それができるんだったらちょっと水をやってよ」って言って。彼は水のシミュレーションを担当し、それをレンダリングし、コンポジターなので最終的に全て自分で合成して仕上げるというところまで1人でやれたんです。ものすごく効率的でした。うちの会社というか、うちのチームには、割とそういう人が多いですね。最初に出てくる若いゴジラも、コンポジターとしてとして入って2、3年目の人が、趣味でブレンダー(*3DCGモデリングソフト)でアニメーションをやってると言うから見せてもらったら、めちゃくちゃうまいんです。そういうのを見て、中堅の人たちがみんな焦り始めて。一人一芸じゃダメだって、いろいろ新しい技術を身につけ始めたりして、若者たちとお互いに刺激をしあって、ちょっといい感じになっています。

フランス:カットやショットを1人のアーティストに割り当てることで、ショットに対する責任感が生まれます。今おっしゃった、水のシミュレーションやコンポジションは、確かに僕らが最も興奮したポイントで、それは各アーティストが自分の作品だという認識で作っているからなのでしょう。アメリカのVFX業界では数千人が一つのプロジェクトに関わりますが、『ゴジラ -1.0』では35人のみ。それだけでも驚きなのですが、ハリウッド流のやり方とみなさんのやり方の、長所と短所はなんだと思いますか?

山崎:いろんなショットを作りたいときはちょっと足りない、もうちょっと増やしていかなきゃいけないと思います。白組がどう変わっていくかは大きな課題なんですけど、非常に狭い範囲で作れるからチェックは楽だし、早いし、お互いにカットを観ながらあーだこーだ言う機会がすごく多いですね。普通のVFXのスタジオだと会議を開いて試写をしながらみんなで観て意見を言うみたいになると思うんですけど、あんまりそういうのはなくて、その場その場で誰かが何か問題点を見つけたりしたら、アドバイスするみたいな、お互いの交流がすごく多いです。あと、今回から全員がワンフロアに入れるようにしたんです。だから僕も椅子でどこまでも行けるし、椅子に座ったまま後ろからすぐに観られるので、非常に効率的になったと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「レポート」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる