『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』は劇場鑑賞の価値あり? 鍵となるアニオリ描写

『鬼滅の刃』柱稽古編の鍵はアニオリ描写?

 吾峠呼世晴の大ヒット漫画を原作として、映画界、アニメ界の常識を超えるフィーバーを巻き起こしたアニメーション作品、『鬼滅の刃』。2023年春頃に放送された、シーズン4にあたる「刀鍛冶の里編」が終了し、また1年後の春から「柱稽古編」がスタートする。

 「刀鍛冶の里編」放送の前に映画館で上映されたのが、『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』。その内容は、TVシリーズ「遊郭編」のクライマックス部分とともに、「刀鍛冶の里編」の特別編となる第1話がフライングでリリースされるというものだった。この度上映されている『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』も、同様に「刀鍛冶の里編」のクライマックスと、おそらく「柱稽古編」の特別編第1話となるエピソードを観ることができるという趣向だ。

 基本的にはすでに放送、配信されている過去の映像と、春まで待っていれば自宅で観ることのできる映像が組み合わされた内容ではある。果たして、これを劇場で鑑賞する価値があるのか。ここでは、作品を振り返りながら、その気になる点について考えていきたい。

※本記事では、「刀鍛冶の里編」及び「柱稽古編」の一部ネタバレがあります。

 まず、前作『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』の上映された規模を超え、140以上の国と地域で公開されるという事実は無視できない。日本の作品がここまでワールドワイドに楽しまれるというのは稀有な事態であり、そのイベントに参加する高揚感は、もちろんあるだろう。ある意味、新シーズンを祝う祭りとしての上映だと受け取ることができる。「刀鍛冶の里編」を堪能し、「柱稽古編」や、それ以降にも期待をかけるファンにとっては、動員を増やすことで作品を応援する意味も出てくるだろう。

 「同じ内容を利用して、TVシリーズと映画館で二重に稼いでいる」という見方もある。それは、確かにそうだ。ただ同時に、裏を返せば、劇場作品としても提出できるクオリティを維持してくれているということでもある。その点に賛同できるのであれば、鑑賞料金は惜しくないと考える観客は少なくないのではないか。実際、私が新宿の映画館で鑑賞したときは、ほぼ席が埋まっている状態だった。

 すでに放送、配信されている「刀鍛冶の里編」のクライマックスについては、いま語るところは少ないが、映像が全編4Kアップコンバートされていることや、サウンドが劇場の環境に合わせて最適化されているといった点を踏まえると、もう一度、上限の鬼との決着や、主人公・竈門炭治郎(かまど・たんじろう)の勇姿、妹の禰󠄀豆子(ねずこ)に起きる奇跡の描写などを、大迫力で楽しみたい観客、他の観客とともに味わいたい観客にはおすすめすることができる。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』で、劇場鑑賞の充実感を先に味わった観客であれば、TVシリーズの盛り上がりも劇場で体験しておきたいと思うのも確かだろう。

 ただ、炭治郎が禰󠄀豆子にまつわる深刻な決断に迫られ、再び動き出す展開については、およそ6分ほどの時間をかけて描かれるため、あらためて劇場で観ると、さすがにテンポが遅く感じられた部分ではある。この瞬間、里の刀鍛冶たちが鬼に追われる危機が同時進行しているため、切迫感に欠けるところがあるのだ。原作の描写をよりエモーショナルな方向に“ブースト”する演出を徹底させてきたシリーズとはいえ、こういったあたりは、いささか情緒に偏り過ぎてしまっているようにも思える。

 このようなバランスになった原因は、もともとの原作が、“涙を誘う感動”というよりも、どちらかといえば“展開の驚き”を感じさせるものであったため、そこをこれまでのシーズン同様に最大のスペクタクルかつ感情の盛り上がる描写に設定したことで、炭治郎の葛藤を長めに見せなければならなかったということだろう。一定の理解はできるものの、ここまでファンの幅を広げた作品であるだけに、シーズンごとに感情を最大限に爆発させなければならないというプレッシャーを感じることもないのではないかと、あらためて感じた点である。

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