『「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』は劇場鑑賞の価値あり? 鍵となるアニオリ描写
しかし、何と言っても本作で注目が集まるのは、「柱稽古編」ということになるだろう。原作漫画でその先を読んでいない「TVアニメ派」は、新たな上弦の鬼撃破の後に何が起こるのか、禰󠄀豆子の運命はどうなるのか、炭治郎はじめ鬼殺隊士の一部に浮き出ている“痣(あざ)”の謎とは何なのかなど、いち早く先を知りたいと考えているファンは多いはずだ。また、新たな声優のキャスティングを確認したり、オープニング映像と主題歌を楽しんで、次のシーズンに思いを馳せることもできる。
最も大きなサプライズは、かなり大胆なアニオリ(アニメ版のオリジナル展開)が存在するところだ。そこでは、風柱・不死川実弥(しなずがわ・さねみ)と蛇柱・伊黒小芭内(いぐろ・おばない)が、さらわれた女性を取り戻すために無数の鬼たちを斬りまくっていくアクションシーンが堪能できる。この二人のそれぞれの呼吸による剣技が、原作のタイミングよりも早い時点で楽しめるというのは、ファン垂涎といってよいだろう。
こういう見せ場を入れる必要があったのは、原作の「柱稽古編」にあたる部分の序盤に派手なアクションシーンがなく、アニメーション作品として“動の描写”に欠けるところがあると判断したためだと思われる。そうでなくとも、原作の「柱稽古」自体が短い内容であるため、アニオリを挟んでいかなくては、このシーズンが成立しないという問題もあるはずだ。
シーズン1ではテンポの良かったTVアニメ『鬼滅の刃』が、ここにきて展開を遅らせているのは、商業的な理由も大きいことは想像できる。ややもすると「柱稽古編」の後にアニオリのみのシーズンが設定される可能性も考えられる。ただ、さまざまなアニメシリーズを観てきた経験上、現在の製作事情では、多くの場合アニオリは原作の本筋を崩すようなものであってはならないため、なかなかチャレンジングな内容にならないことも確かだ。つまり、あってもなくても全体が成立してしまうエピソードにならざるを得ず、魅力的なものを生み出すのが厳しいところがあるのである。
今回の風柱と蛇柱のミッションにせよ、その過程で鬼の本拠地である「無限城」を二人が垣間見ているという事実を新たに作ったのであれば、原作にもある、その後の緊急柱合会議の場面では、その話題が重要事項として話し合われるのが自然なはずである。その描写ができないというのも、アニオリならではの現象なのだ。
とはいえ、アニオリが存在しない作品というのも寂しいものだ。アニメ『鬼滅の刃』は、これまでも細かい部分でアニオリを差し込むことで、原作に彩りを加えている。製作事情から、アニオリ部分をこれまでより多く必要とするようになってきたのであれば、それこそ脚本家や演出、作画スタッフの技術や創造的な領域での仕事が、それぞれに問われることになってくるはずだ。
それならばそれで、リスクは増えるがアニメーションとしての評価軸が増えてくることになる。もちろん、スタジオ「ufotable」の今後の動きはベールの向こう側に隠されているが、その選択も含めて、興味深いものがあるというのが現状である。最近、ある出来事から「メディアミックス」全体に対する風当たりが強くなっているだけに、アニメ『鬼滅の刃』の今後も、どのような選択をするにせよ注目が集まることになるだろう。
そして、今回上映されている特別編の内容やオープニング映像もまた、今後スクリーンでまた観られる保証のないものであることも確か。このあたりに重きを置くか、価値を感じられるかどうかが、本作を鑑賞するかどうかの分かれ道となるはずである。
■公開情報
『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』
全国公開中
キャスト:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、岡本信彦、櫻井孝宏、小西克幸、河西健吾、早見沙織、花澤香菜、鈴村健一、関智一、杉田智和
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝、アニプレックス
©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com/anime/hashirageikohen/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/kimetsu_off