玉置玲央が『光る君へ』で放つキケンな魅力 華やかな布陣の中でも際立つ存在感
そんな玉置の演技者としてのキャリアのはじまりは演劇である。現在も劇団「柿喰う客」の一員だ。やはり舞台で鍛えてきた人間は基礎力が違う。演劇には映像のような編集があるわけではないし、いちど幕が上がれば逃げ場はない。目の前の観客に差し出せるのは、さまざまな経験を積んだ己の肉体のみ。これをいかに信じられるかが舞台俳優としての強さに関わってくるのではないかと思う。そしてそこで培われたものは映像の領域にだって生きるはずなのだ。
私が玉置玲央という俳優を知ったのは、2012年に上演された「柿喰う客」の『無差別』という作品でのこと。彼の声と身体の扱い方には、まるでアスリート的なものを感じ、衝撃を受けた。近年は朝ドラ『おかえりモネ』(NHK総合)や佐向大監督による映画『教誨師』(2018年)に『夜を走る』(2022年)など映像の領域でもアクティブな活動を展開しているが、やはり舞台にもコンスタントに立ち続けている。2022年に上演された『パンドラの鐘』のハンニバル役は、やっぱりすごかった。1999年に野田秀樹と蜷川幸雄が“世紀の演劇対決”として同時期に上演したビッグタイトルであり、野田版では松尾スズキが、蜷川版では松重豊が演じたキャラクターである。
このように豊かなキャリアを築いてきたタイミングでの道兼役は非常に大きいはず。大河ドラマは視聴者層の幅が広く、先述してきたように道兼は目立つキャラクターだ。本作でさらにその名前と力が知られることになるのだろう。こういった俳優のキャリアの流れに対して、「ブレイクした」などと評する言葉をたまに目にするが、小劇場をはじめとする演劇は下積みの場などでは決してないことを強く言っておきたい。『光る君へ』で放つキケンな魅力を、体温が感じられる距離感でこれからも味わっていきたいものである。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK