支持されない作品がなぜ大ヒット? 『Lift/リフト』から考える配信作品のあり方
面白いのは、批評サイトでの『レッド・ノーティス』の評価の結果だ。批評家がをほとんど同作を評価していないのに対して、一般の観客の支持率は、圧倒的に高いのである。なぜ、本作とそれほど変わらない内容の作品を、それほど一般の観客が評価したのかといえば、それはキャストの違いしか考えられない。
『レッド・ノーティス』では、ライアン・レイノルズ、ガル・ガドット、ドウェイン・ジョンソンといった、第一線のアクションスター3人が共演するといった、圧倒的な豪華さが話題となった。この意外性あるキャスティングや、なかでもライアン・レイノルズのマシンガントークを活かした内容が、観客を楽しませることになったはずである。しかもこの3人は、それぞれ一人でも、オーソドックスなアクション大作の主演を務め上げることができる。
一方、ケヴィン・ハートは、いまのところコメディ要素が強い役柄でこそ真価を発揮する俳優であり、アクション大作で主役を張るためには、脚本上の工夫が必要になってくる。既存のアクション大作の役柄に当てはめられるユーティリティなスターというわけではないのだ。これらの事情を総合して考えれば、本作『Lift/リフト』が批評家の心を動かすことができなかったのはもちろん、一般の観客にも支持されなかった理由が理解できてくるのである。
しかし、だ。そんな作品が、大勢の観客に視聴されたという事実こそ、今回語るべき問題だといえるだろう。劇場で上映される映画作品は、仮に途中で観客が映画館を出たとしても、変わらず興行成績にカウントされるため、上映開始当初は、その映画が面白いかどうかは分かりづらい。だが配信作品は、視聴された時間をカウントできるので、より正確な評判が反映されるはずなのだ。
観客に支持されていないのに視聴数、視聴時間を稼いでいる……。一見、ミステリーのようだが、じつは配信作品には往々にして起こり得ることだ。例えば、作品名は伏せるが、日本の低予算ホラー作品が、配信サービスの日本のランキングで高い成績を記録したことがある。筆者も、その作品を配信で鑑賞したが、大人の鑑賞に耐えるとは言い難い内容だと評価せざるを得なかった。
にもかかわらず、なぜその作品が、大勢の視聴を記録したのかといえば、インターネット上で話題になった都市伝説を基にしていることや、作品のサムネイルをクリックしやすいジャンルだったからなのではないか。そして、ラストがどのような展開になるのか気になる題材であったことも、この「ヒット」といえる状況を作り出したのではないかと想像する。
そう考えれば、インターネット配信の作品というのは、劇場とは異なるユーザーの動きが見られるという見方が成り立ってくる。チケット代が必要となる劇場作品については、評判を基に慎重に判断する傾向にある観客も、配信オリジナル作品であれば、豪華キャストや大作という情報だけで、気軽にタイトルのサムネイルをクリックすることができる。そして、一度観はじめてしまえば、結局最後まで観てしまう観客は少なくない。Netflixの大ヒット作品のなかには、劇場作品の興行成績よりも、それほど優れていないタイトルが含まれている割合が多いと感じられるのは、そういうところなのではないか。
問題は、Netflix側が、視聴数、視聴時間を基に作品の評価を判断してしまわないかという点だ。もちろん、それが高い作品には、何らかの理由があるのだろう。しかし、それで観客が満足しているかは、少なくとも配信システム上では、視聴後の評価ボタンで判断するしかない。しかし、律儀にボタンを押しているユーザーは、それほど多くないのではないだろうか。
ケヴィン・ハート主演のNetflix作品のなかでは、筆者はポール・ワイツ監督の『ファザーフッド』(2021年)が、お気に入りだ。男ひとりで娘を育てていくという子育てコメディだが、男性による育児参加に社会が十分に対応していないことや、母親ばかりが負担を強いられる現実を、ハートの見事な演技によって、笑ったり目を潤ませたりしながら理解することができる。こういう作品は、地味ながらいつまでも心に残るものがある。
男手ひとつの子育て奮闘記『ファザーフッド』 クラシカル志向で描く現代的なテーマ
次々に映像作品を製作、配信し続けているNetflix。しかし、世に多くの作品を送り出しているがゆえに、その中には優れた内容なのに…
このように、支持されない作品が大ヒットするという『Lift/リフト』のケースは、ある意味でNetflixの課題や、配信作品のあり方について、さまざまなことを考えさせるきっかけになるのではないか。そして、“観客を楽しませながら、何を残すことができるか”という価値観を、作り手たちは忘れないでほしいと思うのである。ジャンルにかかわらず、このような点こそが、いまも昔も変わらない、劇場作品も配信作品も共通の、映画における普遍的な価値であると思えるからだ。
参照
https://news.nifty.com/article/entame/movie/12287-2744746/
■配信情報
『Lift/リフト』
Netflixにて配信中