チャン・グンソクとホ・ソンテが演技合戦! 『餌【ミッキ】』は韓国社会の病巣をえぐる 

『餌【ミッキ】』がえぐる韓国社会の病巣

 韓国ドラマ『餌【ミッキ】』のDVDが発売中、そしてU-NEXTで先行配信されている。チャン・グンソクとホ・ソンテが共演し、韓国史上最大の詐欺事件と関連する殺人事件を描くクライムサスペンスは、一度観始めると停止ボタンを押すのが難しい。それくらい引き込まれる作品だ。

 最初に断っておくと、筆者は普段国内のドラマや映画についてコラムを書くことが多く、必然的に視聴するのもそれらの作品が中心になる。韓国ドラマや映画は観てもわずかで、近年観た作品は、映画だと『パラサイト 半地下の家族』、ドラマでは『愛の不時着』と『梨泰院クラス』を完走したが、『イカゲーム』は途中で挫折した。BTSやTWICEは聴くし、新大久保にはたまに降りるが、韓国に行ったことはない。そんな韓国ビギナーな筆者が『餌【ミッキ】』の見どころをファーストインプレッションにもとづいて紹介したい。

 2010年、韓国。スポットライトを浴びてステージに立つ男。満場の観衆の視線を一身に集める男の名は、ノ・サンチョン(ホ・ソンテ)。韓国で最大規模の会員数を誇る投資グループ「ピッグス・ネットワーク」の会長だ。直後にサンチョンは事故に遭い、逃亡先の中国で命を落とす。舞台は2023年に飛ぶ。警察の査問を受ける若い刑事はク・ドハン(チャン・グンソク)。規律を守らなかった部下への処分を証拠にもとづき理路整然と反論する。タフな交渉をいとわないドハンはかなりのやり手のようだ。

 10数年の時を隔てて対峙する2人の男。彼らこそ本作の主人公とその前に立ちはだかる悪役であり、知略を尽くし、尋常じゃない執念で敵を追い詰め、互いを利用しながら相手の裏をかく頭脳バトルを展開していく。

 5年ぶりのドラマ主演となったチャン・グンソクは、かつて貴公子然とした容貌で人気を博した。今作で演じる刑事のドハンは元弁護士という異色の経歴の持ち主。クールな眼差しで詐欺事件の裏に隠された真相を暴いていく。とにかくチャン・グンソクがカッコいい。無精ひげを生やし、憂いを帯びた表情が成熟した色気を発散しており、男女問わずその魅力のとりこになるのも納得だ。陰のあるドハン刑事は悲しい過去があり、サンチョンとの接点が明らかになっていく。アジアのトップスターとして輝きを放ったチャン・グンソクは、経験を重ねることで人生の酸いも甘いも嚙み分けた背中で語る俳優へと脱皮した。チャン・グンソクの現在地はファンならずとも必見である。

 対するホ・ソンテもすごい。『イカゲーム』の怪演で知られるホ・ソンテは悪役のイメージが強いが、本作でも己の野望にまっすぐ突き進むキャラクターを演じている。チンピラのサンチョンは、知り合いにだまされて牢屋にぶち込まれる。頭の回転が速い彼は、騙されるのではなく騙す側になると決め、悪知恵を駆使してのし上がっていくのだが、サンチョンの一代記はピカレスク・ロマンのような面白さがある。誰よりも人間くさいサンチョンは、人を騙すのはこういう人間なのだという説得力があり、思わず感情移入せずにいられない。主役を食ってしまう存在感は演技力に裏打ちされている。ホ・ソンテ自身、かつて韓国の大企業LG電子(現LGエレクトロニクス)の社員で、俳優として下積みを重ねてきた。苦労人でバイプレイヤーとして多くの作品に出演するホ・ソンテは、日本で言えば遠藤憲一や松重豊に当たるだろうか。

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