『アクアマン/失われた王国』は恐るべき映画だ ジェームズ・ワンによる“お疲れ様超大作”

『アクアマン/失われた王国』は恐るべき映画

 さすがジェームズ・ワン! 『アクアマン/失われた王国』(2024年)は恐るべき映画である。いや、内容は普通なのだが、これは凄い映画だ。お蔵入りしてもおかしくないほどの波乱の中で作られているのに、それを感じさせないほど普通に面白いのである。

アクアマン/失われた王国

 話自体はよくあるものだ。前作で海のヒーロー、アクアマン(ジェイソン・モモア)は海底王国アトランティスの王になった。今回はそんなアクアマンに強い恨みを持つ海賊ブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)が、太古に封印された悪の王様の力を使って復讐を企て、世界が存亡の危機に陥る……という順当な続編である。

アクアマン/失われた王国

 しかし、この映画は完成に至るまで2つの大きな嵐に見舞われた。1つ目はDCスタジオがブチ上げた現行のDCユニバースの見直し宣言である。マーベル・スタジオ映画の『アベンジャーズ』シリーズ(2012年)で知られるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)に負けてらんねぇと立ち上がったDCユニバースだが、監督の降板や諸々の事情で思ったような成果が上がらなかったらしく、2023年にMCUの仕事で知られるジェームズ・ガンをトップにした新体制のもと、ユニバースを仕切り直すことが発表された。それはまさに本作を作っている真っ最中のこと……簡単に言えば、会社悲願のプロジェクトを何とかするために働いている最中に、会社から「このプロジェクト、終わりだから」と肩を叩かれたのである。なんと世知辛い話だろうか。私も経験があるので涙が出そうである(あのとき、部長はなぜかミルクキャンディをくれた。あのキャンディの味を僕は一生忘れないだろう)。

 それだけではない。前作でヒロインのメラを演じたアンバー・ハードが、ジョニー・デップとの泥沼離婚裁判に突撃してしまい、映画どころではなくなったのだ。この裁判だけでドキュメンタリー番組が作られるほど事態は紛糾した。おまけにアンバーはあのイーロン・マスクの元カノでもあり、裁判のゴタゴタが激化しても、イーロン・マスクからスタジオに直で「アンバーを外すな」と連絡がきたという噂もある(この真相は闇の中である。あくまで都市伝説だと思ってほしい)。主役級の役者のスキャンダラスな裁判に、大富豪からのプレッシャー。現場のお通夜めいたテンションは想像に難くない。

アクアマン/失われた王国

 会社の上層部から切られた。しかも作品の中核となる俳優は映画どころではなく、おまけにイーロン・マスクに目を付けられている(かもしれない)。普通の映画監督なら、あるいは俺なら、「一身上の都合により退職」させていただく状態だ。しかし、この地獄を何とかしてみせたのがジェームズ・ワンである。超低予算映画『ソウ』(2004年)を引っ提げて、遥かオーストラリアからハリウッドに殴り込んで、今や監督としては『死霊館』(2013年)や『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021年)などの傑作を連発。さらにプロデューサーとしても『M3GAN/ミーガン』(2023年)などを手掛け、常に話題を振りまくハリウッドの昇り龍である。彼は常人なら発狂すると言われるこの現場にあって、この偉大なる映画監督ジェームズ・ワンはベストを尽くした。撮影中に「ZEN(禅)の心を学ぶ必要があった」と発言し、「倒れて集中治療室に送られた」という情報が飛び交って映画ファンを心配させたが、とにかく彼はやり遂げたのである。

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