まさにエンターテインメントの満漢全席! テンコ盛りだけど分かりやすい『アクアマン』の面白さ

『アクアマン』はテンコ盛りで分かりやすい

 お客さんに楽しんでいただく――これがジェームス・ワン監督の理念であろう。ソリッド・シチュエーションの礎となった『ソウ』(2004年)、渋いヴァイオレンス映画『狼の処刑宣告』(2007年)、心霊ホラーの『インシディアス』(2010年)、『死霊館』(2013年)、車が空を飛ぶ『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)などなど、ジャンルの枠を易々と飛び越える一方、この理念は彼が手掛けた全ての映画で一貫している。彼ほど観客へのサービス精神が豊富な男も、そのサービス精神を徹底管理できる男もいないだろう。遂に日本公開された『アクアマン』(2018年)は、そんな彼の真骨頂と言うべき傑作だ。何しろ物語に詰め込まれている要素が多い。ざっくり言うならアクアマン(ジェイソン・モモア)が海底世界と地上世界の戦争を止めるために、世界を巡りつつ悪党をブッ飛ばす話なのだが、ここに魅力的なキャラクターたちと、いくつものドラマが絡み合ってくる。正直、書ききれないほどだが……例えば物語の序盤はこんな具合だ。

 海底の世界から地上へ逃れてきた女王・アトランナ(ニコール・キッドマン)。灯台守りのトム(テムエラ・モリソン)は傷ついた彼女を見つけ、たちまち2人は恋に落ちる。やがて息子のアーサーを授かるが、無情にも海底からの追手が。アトランナは夫と子を守るために海底王国へ帰還する。残されたアーサーはすくすくジェイソン・モモアに成長し、超人“アクアマン”として時おり人々を助けたり、海賊のブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)から激しい恨みを買ったりしていた。そんなある日、海底王国ゼベルの女王メラ(アンバー・ハード)がアーサーを訪ねてくる。彼女によれば、地上を我が物にせんとするアトランティスの王オーム(パトリック・ウィルソン)が 猛威を振るっているという。地上世界を守るために、打倒オームを掲げてアクアマンはメラと海底世界へ向かうが……。

 ここまでで序盤だ。すでに1組のカップルの出会いと別れ、1人のヴィラン(悪役)との因縁の誕生、さらにヒロインとの邂逅まで描いている(ちなみにこの序盤だけで格闘アクションが数回、街がブッ壊れるスペクタクル・シーンまである)。提示される設定やキャラクターの量が多すぎる。文字だけなら明らかに情報過多だが、そこがさすがのワン監督。こうした大量の情報がスルスル頭に入ってくる。「どこで」「どの情報を」「どう提示するか」が徹底的に練られているのだ。印象的なシチュエーション作り、回想形式、モンタージュ、(疑似)長回し、縦横無尽な視線移動、ナレーション、音楽、その他あらゆる技術を駆使して、テンコ盛りの情報を観客に「分からせる」。最も極端なシーンは、舞台がアフリカに移動するやTOTOの「Africa」をサンプリングしたラッパー、ピットブルの楽曲「Ocean To Ocean」が流れるところだろう。アフリカになったら「Africa」を流す。なんと分かりやすい使い方だ。

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