『アクアマン/失われた王国』は恐るべき映画だ ジェームズ・ワンによる“お疲れ様超大作”
まず恐らくはアクアマンとメラ(アンバー・ハード)のドタバタ夫婦の子育て奮闘アドベンチャーだったと思われる話を、アクアマンとその弟オーム(パトリック・ウィルソン)のバディ映画に作り変えた(ちなみにパトリックはワンと何度も組んでいるワン組の若頭である)。ひたすらコテコテのギャグを繰り返し、ウケる/ウケないは関係ないとばかりにボケまくる。とにかく観客を退屈させないために全力投球だ。CGのクオリティが上がったり下がったりするし、アクションも明らかに前作より減っている。しかし要所要所ではしっかりと金のかかった超大作感のあるルックスを見せてくれる。恐らくは特殊効果や美術の人と飲みに行ったとき、相談を受けたのだろう。「ワンさん、僕は悔しかですよ。一生懸命、潜水ロボットや海底戦艦を作ったのに、なんでこんな目に遭わんといかんのですか。僕らの作ったアレもコレも、カットされるんですか」。それに対してワンはきっとこう答えたのだ。「大丈夫じゃ。お前らが作った美術は、わしが絶対に本編にねじこんじゃるけぇ」。そんなやり取りの産物としか思えない、魅力的な面白海底グッズが続々と登場。特にタコ型の移動機械はレトロさとカッコよさが同居する、素晴らしいロボットだった。オモチャが欲しい。
そして堂々と炎上案件を受けとめる一方で、本作にはワンの「転職用ポートフォリオ」という側面もあったように思う。南極で怪物触手に襲われるクトゥルーなホラーシーン、どこか『スター・ウォーズ』シリーズ(1977年~)を思い越させる海底世界のビジュアル(言い逃れができないくらいのジェネリックなジャバ・ザ・ハットが出てくる)と海底チェイスシーンなど、DCユニバースの組織再編による転職に向けて、「俺はいろいろできるんだぞー!」と叫んでいるように思えた。現場で仕事をしながら、次の仕事への転職活動も忘れない。ここにビジネスパーソン、ジェームズ・ワンの強さがある。
本作は「普通に面白い」の域を出ない。前作のような「スゲェ!」という場所には届かないのも事実だ。ゴタゴタがなく、普通に撮影が進行していたら、きっと素晴らしい作品になっていただろう。非常に悔やまれる映画でもある。しかし、恐らくジェームズ・ワン以外が作っていたら、本当に目も当てられないことになっていただろうし、何なら公開されてなかったかもしれない。とんでもないハンデを背負ったまま、普通にゴールまで走り切ったジェームズ・ワン、やはり天才である。ただ、とてつもなく疲れたのは間違いないと思うので、次はまた『マリグナント 狂暴な悪夢』みたいな映画を撮るなどして、ゆっくり休んでほしい。本作は間違いなく、今年最初の「お疲れ様超大作」である。ジェームズ・ワンさん、本当にお疲れ様でした。
■公開情報
『アクアマン/失われた王国』
全国公開中
監督:ジェームズ・ワン
出演:ジェイソン・モモア、パトリック・ウィルソン、アンバー・ハード、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世、ニコール・キッドマン、ドルフ・ラングレン、ランドール・パーク
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. TM & ©DC