『正直不動産2』ではディーン・フジオカが鍵を握る? 絶妙なバランスで描く価値観の対峙
石の祟りのせいで、ここぞと言う時に「風」が吹いてきて嘘がつけないようになってしまった不動産営業マン・永瀬財地と、「カスタマーファースト命」の月下咲良の名コンビによるお仕事ドラマは、分かりやすい解説つきで教えてもらえる最新不動産情報といった実用的な面でも面白い作品であるが、何より興味深いのは、その非現実的な「風」の存在である。
そしてその「風」を受ける対象であるところの永瀬財地という稀有なキャラクターにも注目だ。嘘がつけなくなったからと言って、誰もが彼のようになれるかと言うとそうではないだろう。底意地の悪さが露呈した、なんてことも大いにあり得るわけで、永瀬のように、弱さを含めた自分の本音も垣間見せつつ、友人や後輩、立場の弱い人のために全力で動こうとしてしまうという根っからの善人はそういないのではないか。その心根の優しさに、見ていて心が和むのだ。もしくは、本当は彼のように「正直」でいたいけれど、売上のため、会社のため、なかなか思い通りにはいかない現実社会を生きている人々にとって「嘘がつけない人間」永瀬は、本当は「こうありたい」自分であるとも言える。
さて、スペシャル版において印象的だったのは、昭和の価値観と令和の価値観の相克である。とはいえ、あくまで対立構造ではなく、両方を活かす形で描いていることの面白さがあった。大地主・葉山(笹野高史)を「昭和の死に損ないのゾンビみたいなおっさん」と揶揄しつつ、大河(長谷川忍)による「昭和の営業マン」スタイルを見習ってうまく接待し、それでいて、永瀬自身は「風」に吹かれるまま、葉山を批判し、なおかつ「時代は変わったんだから、あなた自身も変わりましょう。その手伝いを登坂不動産がいたします」と説く。冒頭から、部長である大河による「伝統重視」の姿勢を「今、令和」と戒める登坂、それでもいいものはいいと言う月下の言葉で実にバランスよく描いてみせた。
今月の営業成績を巡って、彼のアイデンティティであるところの「昭和の化石みたいな言動」を封じられるところだった大河が、永瀬と月下を抜いて1位になることで登坂に「ほどほどにな」と受け入れられる場面も印象的だった。昔気質の営業スタイルの大河と、それを冷めた視線で見る永瀬、最も時代の変化に適応している登坂といった図を、分かりやすい構図で見せる中、若手社員である月下が「あいつが一番昭和」と言われる一面を見せるのもリアリティがあって良い。その絶妙なバランス感覚で描かれる、働く人々の「昭和/令和の価値観」との対峙。そこに投入される新キャラクター・Z世代の十影(板垣瑞生)が、一体どんな新風を吹き込み、登坂不動産をどう揺り動かすのか。
そして、登場の瞬間から『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)を思い出さずにはいられなかったほど、ミステリアスな雰囲気を醸し出す、ディーン・フジオカ演じる神木涼真。これまでも度々話題の中に登場していた「ライアー永瀬」を生むきっかけとなったかつての上司とのこと。ある意味、登坂や石田とは対照的な「師匠」である神木が、永瀬の前に再び現れ「お前から全て奪ってやる」とは、一体どういうことなのだろうか。
■放送情報
『正直不動産2』
NHK総合にて、1月9日(火)スタート 毎週火曜22:00〜22:45放送
出演:山下智久、福原遥、市原隼人、泉里香、松本若菜、長谷川忍、板垣瑞生、松田悟志、馬場徹、伊藤あさひ、財津優太郎、山﨑努、大地真央、倉科カナ、高橋克典、草刈正雄ほか
原作:大谷アキラ(漫画)、夏原武(原案)、水野光博(脚本)
脚本:根本ノンジ、清水匡、木滝りま
音楽:佐橋俊彦
主題歌:小田和正 「so far so good」
制作統括:黒沢淳(テレパック)、山本敏彦(NHKエンタープライズ)、長谷知記(NHK)
プロデューサー:室谷拡(テレパック)、樋渡典英(NHKエンタープライズ)
演出:川村泰祐(アンドリーム)、金澤友也(テレパック)ほか
写真提供=NHK