映画『イチケイのカラス』竹野内豊が“法律の限界”に挑む 変化したみちおと千鶴の関係性

『イチケイのカラス』が挑む“法律の限界”

 ドラマ版のハイライトだったみちおの職権発動は映画では影を潜めている。映画版の舞台は岡山。刑事から民事に転任したみちおは、他職経験制度を使って弁護士として赴任した千鶴と再会し、公害訴訟とイージス艦の衝突事故という2つの事件に関わることになる。しかし、みちおが自ら現場に足を運ぶことはない。これは刑事と民事の違いが影響している。映画版でみちおに代わって検証を行うのが千鶴である。裁判官だった千鶴は、依頼人のために証拠を集めることになり、ワケあり人権派弁護士の月本信吾(斎藤工)とともに真相を探ることになる。

 みちおと千鶴の関係性の変化は本作の注目ポイントだ。これまでみちおのせいでさんざんな目に遭ってきた千鶴は、映画版でもなかなかな扱いを受けており、千鶴VSみちおの因縁あるいは息の合ったコンビネーションはさらに進化・深化している。堅物の千鶴は依頼人のため奔走するなかで社会の現実に直面する。矛盾を抱えた人間という存在を相手にして、答えのない問題にどう向き合うか。法律家としての千鶴の成長は連続ドラマから一貫したテーマだ。

 ゲストも多彩だ。月本役の斎藤工、防衛大臣の鵜城に向井理、傷害事件の犯人で衝突事故を起こした島谷(津田健次郎)の妻・加奈子に田中みな実、産業医の小早川悦子に吉田羊、その夫で町役場職員の輝夫に宮藤官九郎、商店街にある和菓子屋の店員・植木役に八木勇征を配した。みちおを支える岡山地裁秋名支部の左右陪席には、柄本時生と西野七瀬のフレッシュな顔ぶれで臨む。旬のキャスティングは見応え十分だ。

 本作には「法律の限界」というキーワードが登場する。作品の肝となる法廷シーンでは隠された人間模様が明らかになる。法律の難しい説明を最小限にとどめる中で違いを生んでいるのは、みちおが当事者や証人に呼びかける問いだ。そこには人間への柔らかな眼差しがある。裁判では何らかの法的な決着がつくが、時には当事者にとって本意でない判決もある。その時に司法は何ができるのか。みちおの決断はこの社会に生きる全員に示唆を与えてくれるだろう。

■放送情報
映画『イチケイのカラス』
フジテレビ系にて、1月6日(土) 21:00〜23:40放送
出演:竹野内豊、黒木華、斎藤工、山崎育三郎、柄本時生、西野七瀬、田中みな実、桜井ユキ、水谷果穂、平山祐介、津田健次郎、八木勇征、尾上菊之助、宮藤官九郎、吉田羊、向井 理、小日向文世
原作:浅見理都『イチケイのカラス』(講談社「週刊モーニング」)
監督:田中亮
音楽:服部隆之
脚本:浜田秀哉
©️浅見理都/講談社・2023 映画「イチケイのカラス」製作委員会

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