『ブギウギ』羽鳥の“悲しさ”を滲ませる草彅剛の名演ぶり 絶望を物語る“抑え目な笑顔”

『ブギウギ』羽鳥の悲しさを滲ませる草彅剛

 しかし、いつだって飄々としているかに見えた羽鳥も、実はその心の底では暗澹たる思いを常に抱えていたことがわかる。それに決して飲み込まれてしまわぬように自分自身に言い聞かせるようにあえて“楽しむ”という言葉を使っていたようだ。それが何よりの抵抗になり、そして今自分が取り得る唯一のアンチテーゼでもありファイティングポーズにもなるから。「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである」という哲学者・アランの言葉が思い出される。

 善悪が極端に二分されてしまう時代に、りつ子のようにはっきりと自分の意志を表明するのも一つの戦い方なら、羽鳥はあえてこの世の中だからこそニュートラルに、できるだけ中立にフラットであり続けようとする。嵐もうまく避ける船の帆のように。それもまた一つの戦い方だ。ただ、その選択には寂しさも付き纏う。どちら側につくでもないからこそ、敵もいなければ味方もいない。同じ温度感で、同じ視点で世の中を眼差せる人がほぼいないということにもなる。

左から、福来スズ子(趣里)、羽鳥善一(草彅剛)茨田りつ子(菊池凛子)

 そんな羽鳥を草彅がまるで彼の一番の理解者であろうとするかのように、彼自身に虚しさが募りすぎてしまわぬように演じている。だからこそ、世俗的ではなく自分の世界を持つ羽鳥の胸の内にも戦争が徐々に影を落としていくさまを、スズ子も我々も直接的に目撃しているわけではないのに、どうしてか妻・麻里(市川実和子)がそっと教えてくれた彼の苦悩の日々を想像できてしまえる気がするのだろう。

 “先生に自分たちの気持ちはわからない”と楽団員に言われても反論することのなかった羽鳥だが、「みんながみんな、先生みたいに楽しめませんよ」というスズ子の言葉には、「そうかな。君も一緒だと思ってたけど」と笑顔で彼女の方に向き直る。

 いつもテンションが一定な羽鳥だが、このところは努めてそう振る舞っているのだろうことが少し染み出すような、その少し寂しげで、でも絶望を何とか近づけまいと敢えて“平常心”“通常運転”を心がける草彅の抑え目な笑顔に胸が締め付けられそうになる。笑顔が哀しげにも見えて切ない。

 そんな羽鳥からのバトンを受け取り、またスズ子の心に火が灯る。「福来スズ子とその楽団」が歩む道とそこにどう羽鳥が交差してくるのか、彼らの戦い方を見守りたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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