『どうする家康』松本潤の感情を抑え込んだ芝居に滲む家康の覚悟 音尾琢真の見事な最期も
『どうする家康』(NHK総合)第42回「天下分け目」。上杉征伐に向かう徳川家康(松本潤)のもとに、石田三成(中村七之助)挙兵の知らせが届く。西国大名の多くが三成につくが、阿茶(松本若菜)の書状を通じて、寧々(和久井映見)をはじめ、徳川の味方となる者がいることも分かる。江戸に戻った家康は、各国大名に応援を働きかける。一方、京・伏見城を守る鳥居元忠(音尾琢真)は、三成の大軍に囲まれ、千代(古川琴音)と共に最期の時を迎えていた。
第41回で、元忠は家康から直々に伏見城を任された。桶狭間を戦い抜いた元忠に、三成は「降伏はすまい」と考えている。元忠は決死の覚悟で伏見城を守り抜こうとするが、守りが弱いところを攻められ、自身も深手を負った。元忠が撃たれたのを見て、家臣たちはすぐさま駆け寄り、千代もまた「お前様!」と駆け寄る。
元忠が家康に強い忠義心をもって仕えているのと同様に、元忠もまた、千代や家臣たちから慕われていることが伝わってくる。元忠は千代をまっすぐ見つめ「お前には生きてほしい」と思いを伝えた。だが、千代は強いまなざしと声色で「お前様が生きるならな」と返す。「私も……ようやく死に場所を得た」そう言って千代は微笑んだ。
城内に攻め入られても、元忠、千代、そして元忠の家臣たちは戦い続ける。しかし一発の銃声が鳴り響き、千代が撃ち抜かれてしまった。元忠に抱き抱えられた千代は、元忠と目を合わせると最後の力を振り絞って立ち上がった。言葉を交わさずとも、2人の間には強い絆があるのだと分かる。千代は信頼する夫・元忠とともに戦い抜くと覚悟を決めていた。千代の闘志に満ちた目は勇ましい。
元忠は、かつて武田の忍びだった千代の言葉にも真摯に耳を傾けた。千代の心は救われたことだろう。敵に立ち向かう千代の凛々しく、勇敢なその姿は、彼女が彼女自身の意思で生き様を選んだことを示している。その道を開いたのは元忠に他ならない。感情的になる一面もあった元忠だが、それは自身と関わりのある者に対して深い感情を向けるからこそ。千代の意志を汲み、元忠は千代の体を支えながら向かい来る敵を斬り倒す。元忠も千代も深手を負い、息も絶え絶えだ。けれど、2人の気迫が周囲を圧倒する。
「殿……お別れだわ」
「浄土で待っとるわ」
銃声によって2人の最期が暗示される直前まで、元忠は猛々しい面持ちを崩さなかった。元忠の鋭い眼光が心に残る。家康を支え続けた元忠は、愛する者に囲まれながら見事な最期を遂げた。