『下剋上球児』“野球”だからこそ描けることとは? 塚原あゆ子監督に聞く撮影の裏側

『下剋上球児』塚原監督に撮影の裏側を聞く

 「熱血教師が落ちこぼれ生徒たちと奮闘して甲子園を目指す物語」ーー『下剋上球児』(TBS系)というタイトルを聞いたときに、想像するのはそんな物語かもしれない。実際、その要素が一切ないわけではないのだが、予想外の“サスペンス”要素も含みながら物語は第2話までを終えた。高校野球にサスペンスが絡めば、ともすれば物語が歪になりかねない。しかし、そうはならないのが、ドラマファンから最も新作が望まれるタッグともいえる新井順子プロデューサー×塚原あゆ子監督の手腕。TBSドラマ『最愛』『リバース』などでもタッグを組んできた脚本家・奥寺佐渡子と共にどのように物語を紡いでいるのか。

 鈴木亮平演じる教師・南雲をはじめとした大人キャストたち、そしてオーディションで選ばれた球児たちも全幅の信頼を寄せる塚原監督に、ここまでの撮影の裏側、本作への思いを聞いた。

野球が他のスポーツと違う点

――塚原さんは、それほど野球に精通されているわけではないと聞きました。

塚原あゆ子(以下、塚原):詳しくない、かつ興味がありませんでした(笑)。この作品をやるにあたって『SLAM DUNK』にはじまり、『おおきく振りかぶって』『MAJOR』といったスポ根系の作品をたくさん研究したんです。そこで感じたのが、野球は他のスポーツとはちょっと違って“止まっている時間”があるので、試合中に話ができるということ。さらには「この人が打てるかどうか」といった1人にかかる責任が大きくて、案外個人競技なのかなと思いました。

――越山高校の球児役の12人をオーディションで選ぶ際には、何を基準にしたのでしょうか?

塚原:まずは野球ができること。硬球なので、かなり危ないんです。プロ級である必要はないですが、たくさん球を投げますし、打ったり走ったりと、体力面ですごく負担になるだろうと思ったので、運動神経も含めて“できそうだな”ということが第一でした。それから、魅力的な表情をどれくらいお持ちなのかをチェックしていました。オーディションでは、うまくセリフを言える必要はないけれど、相手が喋っているときにリアクションが自然に出てくる人にお願いしたいな、といつも思っています。

――特に印象に残った球児は?

塚原:楡伸次郎役の生田(俊平)くんは、お腹の中から感情が出てくるところが魅力的だなと。その分、表情で伝わりづらいし、不器用だなとも思いますが、ふわっと出てくる人間力みたいなものをすごく感じました。生田くんに限らず、強豪校に行っていた子たちを集めているので、みなさん野球の話になると別人のように輝くんです。「あのセリフは……」と言いに行くとみんな恐縮しますけど、「キャッチャーに返球するとき……」と言うとグイグイ前に来る(笑)。そういうリアクションが自然に出るような方たちとやりたいと思っていたので、ぴったりの12人だなと思いますし、それは越山高校のライバル高でもある星葉高校のピッチャーとスラッガー、江戸川くん(清谷春瑠)や児玉くん(羽谷勝太)も同じですね。

――そんな中、キャプテン・日沖誠役の菅生新樹さんは野球初心者です。

塚原:“野球はうまくないけれど、ずっとバットを振っている3年生”は原案にもいるキャラクターで、その役に関しては野球ができるできないではなくて、お会いした中で運命を感じる方にお願いしようと思っていました。菅生くんもオーディションに来て驚いていたんですよね、みんな強豪校出身なので。でも、「俺めっちゃ場違いっすよね」という感じがすごく日沖お兄ちゃんに近くて、この子はこれが運命なんだなと思いました。

――一度はオーディションで12人から外れてしまったけれど、のちに別のキャラクターとして起用された方もたくさんいらっしゃるそうですね。

塚原:オーディションの過程で可能性が見えるところが大きいですし、そのときに顔を見たことが次のキャスティングのきっかけになります。やはりストンとは決まらなくて、A or Bとかなり悩むんですよね。「この子はここが一番」「この子はこっちがいい」と迷ったときに、よかったところを伸ばしたい、活かしたいと考えることによって、逆にキャラクターが生まれるかたちになっています。

――役者に合わせて、役柄の設定を変更したキャラクターもいるのでしょうか?

塚原:足の速い久我原篤史役の橘(優輝)くんは、もともと陸上部の短距離系の体型なんです。なので“子どもの頃に野球をかじっていたけど、中高はまったくそのつもりはなかった”という設定にすることで、代走での盛り上げ役というか、スクイズやホームスチールの要員として活きてくる。きっと橘くんに出会わなければ、あの役は生まれていないと思います。

――野球経験がある球児たちと話をして作ったシーンもあると伺いましたが、そういったところから得られるものはありますか?

塚原:素人にはわからない、野球部ならではのエモさがあるみたいです。「(初心者の)椿屋くん(伊藤あさひ)がレフトにいるときに、ショートが若干深めに守ってレフトをフォローしているのが愛情なんですよね」とか言われると、「ふ~ん(苦笑)」みたいな。そういう話を聞いて、ちょっと椿屋を守るフォーメーションにしていたり、わかる方にはわかる小ネタを詰め込んでいますが、私にはまったくわかりません(笑)。「4つ」(ホームベース)といった野球用語も台本に書いてあるわけではなくて、彼らが阿吽の呼吸でやっているので、野球好きの方にはそんなところも楽しんでいただきたいです。

――本番以外にもカメラを回していると聞きましたが、自然な会話を捉えることが狙いだったりもしますか?

塚原:そこは狙いではなくて、初めの頃はカメラを向けると緊張しすぎて別人の顔になってしまうので、慣れてもらうための方便のようなものでした。あとは今のうちに彼らのファンになってもらうために、私が見て「いい顔だね」と思う表情を、ちょっとでも映し出せたらいいなと思っています。

――第2話では、犬塚翔(中沢元紀)くんの「先輩彼女いるんすか!?」という言葉に、「そういうところに興味があるの?」とギャップを感じました。

塚原:そうやって観ていただけると、球児たちも頑張れます。あれはアドリブなので、先輩のお弁当を見て単純にそう思ったんでしょうね(笑)。

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