鈴木杏×蒼井優『花とアリス』が今も繋ぐ奇跡 『大奥』『ブギウギ』の特別な役に寄せて
鈴木杏が『大奥』で演じた平賀源内は、弟を赤面疱瘡で亡くしたことから、人生は短いと悟り、それまで抱いてきた違和感ーー女物の着物を着て、結婚し、家を継ぐことを明確に自覚。本草学者となって赤面疱瘡を撲滅してみせると家を飛び出し、出会った田沼意次(松下奈緒)に一目惚れ。
しかし、赤面疱瘡撲滅に奔走する中、男たちに襲われ、梅毒に侵される。蘭学でも治せないと知った源内は、青沼(村雨辰剛)に静養すれば急激に悪化することはないと言われ、声を荒げる。
「生きているだけじゃダメなんだよ!」
動き続け、頭を働かせ続けてこそ自分なのだと言う源内。意次もまた、自分の前では弱いところを見せない源内の思いを尊重し、褒美として「女子蘭学の禁を解く(=女性も蘭学を学べるようになる)」という書状を渡す。そこから病気が進行して床に伏せり、目が見えなくなるまで、頭を働かせ続け、自分らしく生き続けた源内は実に凛々しく、美しかった。
NHK土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』(2021年)では教授の論文不正を告発した研究者を、NHK土曜ドラマ『空白を満たしなさい』(2022年)では自殺した夫が蘇ってきたことで戸惑い、葛藤する妻を演じていた鈴木。こうした聡明さと不器用なまでの真っ直ぐさは、鈴木杏の歩んできた俳優道が反映されたものだろう。
一方、蒼井優が『ブギウギ』で演じている大和礼子は、圧倒的スター。セリフがない場面でも、ひとたび画面に現れるだけで、視聴者の視線を釘付けにしてしまう特別なオーラがある。
それでいて、劇団を一段上に引っ張り上げようという強い思いと、プレッシャーが溢れ出してしまう脆さ、後進たちのために待遇改善の嘆願書を出し、会社と戦う気丈さもある。
スターの風格と少女の顔、強さとしなやかさを持ち合わせた異質な存在だ。
ちなみに、まだ出産してまもない蒼井が本作出演を決めた理由は、趣里が主演を務めることや、大好きな宝塚の先生が関わっていること、蒼井がファンとして知られる「ハロー!プロジェクト」の振付師が振り付けを手掛けていることなどだったと『あさイチ』(NHK総合)の「プレミアムトーク」で語っていた。
同じNHKドラマながら、全く別の作品の全く異なる役柄で、全く異なるアプローチによって「時代の理不尽と戦う人」を演じた鈴木杏と蒼井優。しかも、今年は2人が共演したショートフィルム版の『花とアリス』から20年となる節目でもある。
ちなみに、岩井監督は先述のインタビュー内で「腐れ縁」のようなものを意識するようになったのが『花とアリス』を作り始めた40代あたりだったと語っていた。
20年前にふざけ合い、笑い合い、取っ組み合いをした2人の少女が、別々の道を歩んできた中、こうしてなぜか同じときに別々の場所で近しい役割を担っているーーそんな不思議な縁も含めて、『花とアリス』が令和の今も続いている奇跡を噛み締めてしまうのだ。
参照
※1. https://www.oricon.co.jp/special/48150/2/
※2. https://nbpress.online/archives/3986
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
ドラマ10『大奥』Season2
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
出演:
【医療編】
鈴木杏(平賀源内)、玉置玲央(黒木)、村雨辰剛(青沼)、岡本圭人(伊兵衛)、中村蒼(徳川家斉)、蓮佛美沙子(御台・茂姫)、安達祐実(松平定信)、松下奈緒(田沼意次)、仲間由紀恵(一橋治済)
【幕末編】
古川雄大(瀧山)、愛希れいか(徳川家定)、瀧内公美(阿部正弘)、岸井ゆきの(和宮)、志田彩良(徳川家茂)、福士蒼汰(天璋院・胤篤)
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
音楽:KOHTA YAMAMOTO
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社