『大奥』鈴木杏&村雨辰剛の切なく美しい去り際 2人の魂を救済した「ありがとう」

『大奥』鈴木杏&村雨辰剛の美しい去り際

 赤い炎よりも温度が高く、静かに長く燃え続ける。そんな青い炎が余韻を残すようにフッと消えたNHKドラマ10『大奥』第13話。予告映像からある程度予想はできたが、田沼意次(松下奈緒)、平賀源内(鈴木杏)、青沼(村雨辰剛)の3名が辿る運命には名状しがたい絶望感を覚えた。

 外国の書物をヒントに、赤面疱瘡の人痘(=ワクチン)接種法を編み出した青沼たち。源内が見つけてきた軽症患者から赤面の“種”を受けた伊兵衛(岡本圭人)が見事に回復を遂げ、生き証人となったことで次々と接種希望者が現れる。一方で、度重なる自然災害で飢饉が発生し、飢えに苦しむ民の不満は幕政を握る意次へ一挙に向かった。さらには、人痘接種を受けた松平定信(安達祐実)の甥が副反応で死亡。それでも10代将軍・家治(高田夏帆)が意次に変わらぬ信頼を寄せていたら、どうにか糸は細くとも繋がったかもしれない。

 しかし、思わぬ形で意次は家治からの信頼を損ねる。家治は長い間、お匙に少しずつ毒を盛られていたことによる慢性ヒ素中毒に陥っていたのだ。側にいながらそのことに気づかなかった意次と、効果的な治療法を提示できない青沼に彼女の行き場のない怒りはぶつけられる。去り際にこそ人の本性が現れるというが、家治のそれは御台所の五十宮(趙珉和)とは真逆。彼は蘭方医学の立場を悪くしないためにしこりのある自らの身体を青沼に診察させず、生きがいを与えてくれたことにお礼を述べて世を去った。対して、家治は大奥の掟を破ってまで青沼に診察させた上に、治らないことを知ると「黙れ化け物!」「あんなにようしてやったのにその礼がこれか!」と凄まじい剣幕でまくし立てる。だが、そうせざるを得ない彼女の弱さを誰が責められようか。未熟という一言では語り切れぬ、理不尽な目に家治もまた晒されたのである。

 この出来事は意次の失脚を決定付け、老中職を免ぜられた。青沼は死罪に、彼の元で蘭学を学んだ者たちは大奥を追われることとなる。それを命じたのは、源内を強姦した男たちに金を払っていた武女(佐藤江梨子)。源内もまた青沼の後を追うかのように、梅毒でこの世を去る。胸が締め付けられるほどに哀しいけれど、青沼と源内の去り際は五十宮に負けず劣らず切なく美しい。

 二人とも最期の最期まで赤面撲滅のために奔走し、一人でも多くの男子が人痘接種を受け、人々がその脅威から自由となった未来を願いながら死んでいった。死の間際でさえ、彼らが満足気な微笑みを携えていたのは、何よりの願いだった「ありがとう」をたくさん聞けたから。特に心を寄せた意次からの「ありがとう」は非業の死を遂げるに至った二人の魂を救済したと信じたい。儚げな空気の中に凛とした強さを感じさせた村雨辰剛の青沼、燃えるような信念と好奇心に満ちた鈴木杏の源内、クレバーでありながら人としての温かみに溢れていた松下奈緒の意次。3人のキャラクターが視聴者の心を掴んで離さなかった「医療編」の前半戦が幕を閉じた。

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