『死霊館のシスター 呪いの秘密』は主客転倒した作品? シリーズの中での位置づけを考察

『死霊館のシスター 呪いの秘密』内容を考察

 実在したアメリカの心霊研究家、エド&ロレイン・ウォーレン夫妻の物語を、「ホラーマスター」と呼ばれるジェームズ・ワン監督が先鋭的な演出で創造力豊かに映像化した『死霊館』(2013年)。その意欲的なホラー映画は、いまや数々のシリーズ、派生作品が作られ、“ユニバース”化するに至った。

 ユニバース作品として、『死霊館』に登場した呪いの人形アナベルや、『死霊館 エンフィールド事件』(2016年)に登場した、悪魔の修道女“シスター ヴァラク”(以下、ヴァラク)を題材としたスピンオフ映画シリーズも生み出された。ここで扱う『死霊館のシスター 呪いの秘密』は、まさにそのヴァラクの物語を描いたスピンオフ『死霊館のシスター』(2018年)の続編である。

 ここでは、そんな本作『死霊館のシスター 呪いの秘密』の内容を読み取っていきながら、シリーズ中でどう位置づけるべきなのか、そしてヴァラクとは本質的にどういう存在なのかを、複数の角度から考えていきたい。

 ヴァラクの脅威に立ち向かうのは、前作『死霊館のシスター』に引き続き、修道女アイリーン(タイッサ・ファーミガ)と青年モーリス(ジョナス・ブロケ)だ。そこに、修道女デブラ(ストーム・リード)が加わり、新たな謎解きと、惨劇の根源となる悪との戦いが展開していく。

 ヴァラクは前作において、アイリーンが放った聖遺物「キリストの血」の力によって封印されたはずだった。だがそのラストでは、戦いに協力したモーリスの首筋に「逆十字」が浮かび上がるという不穏な描写が用意されていて、ヴァラクが健在であることと、新たな惨劇を予感させていたのだった。続編である本作は、この一連の顛末に、一つの決着が着くことになる。

 おおまかなストーリーは前作とそれほど変わらず、繰り返しにすら思えるだけに、注目したいのは、何が決定的に変化したのかという点になる。その意味で最も興味深いのは、修道女アイリーンの出自が判明するという展開だろう。これは、アイリーンというキャラクターを深く理解したり、本作の戦いの行方に影響するだけでは終わらない。

 もともと、『死霊館』シリーズでロレインを演じていたヴェラ・ファーミガが、『死霊館のシスター』シリーズでアイリーンを演じたタイッサ・ファーミガと姉妹の関係であることから、物語の設定のなかでも、二人が演じる人物は血縁関係にあるのではないかという噂が囁かれていた。もしそうだとするならば、特殊な才能を持ったアイリーンの出自が、その力の理由を説明することになったという事実は、そのままロレインの特殊な力をも説明することになるのである。つまり、『死霊館』シリーズの設定にも重要な示唆を与えた可能性があるということになるのだ。

 もう一つ、大きな見どころとなっているのは、ロケーションの素晴らしさだ。とくに息を呑むのは、南仏の小さな町「タラスコン」の光景だろう。怪物退治の伝説が残るタラスコンは、いまも中世の歴史を感じさせる要塞や、狭い路地や石畳が特徴的な旧市街が印象的。本作では、その路地を少年がボールを蹴りながら走ることで、石畳を踏み鳴らす音が強調され、趣深さが増している。

 また、タラスコンから車で1時間強ほどの場所にある古都、エクス=アン=プロヴァンスでは、メインの舞台となるフランスの寄宿学校として、カトリック系のプレシュール修道院が選ばれた。この建物の造形も、本作に本物の風格を与えている。ちなみに、そこで少女たちのイタズラに利用された虫(ゴキ)も本物が使用されたようだ。

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