『きのう何食べた?』が教えてくれる“変化”の楽しみ方 変わらないために変わること

『きのう何食べた?』が描く“変化”の楽しみ

 人気漫画家・よしながふみの同名コミックが原作のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京)。season2の第2話では、弁護士事務所の所長・美江(高泉淳子)の提案や佳代子(田中美佐子)の家での出来事を通じて、西島秀俊演じる筧史朗(以下、シロさん)の「変化」に対する捉え方が変わっていく。

 シロさんは美江から弁護士引退の意向と、事務所を譲りたい旨を告げられる。美江から“彼女”との結婚と独立を考えているのかどうかを問われたシロさんはうろたえながらも、独立も結婚も考えていないこと、そして「変わらないのがいい」と率直に答えた。その結果、美江から「責任を負いたくないだけだ」と呆れられる。

 シロさんはあまり変化を好まない。そのことを印象づけるのが見た目だ。内野聖陽演じる矢吹賢二(以下、ケンジ)はシロさんの変わらない見た目を羨む。シロさんの「健康維持のために積み重ねてきた努力の結果だよ」という言葉から、変わらないことに努める姿勢が伝わってくる。

 そんなシロさんだが、美江からの指摘と佳代子が教えてくれたある出来事を通じて、変化を受け入れる姿勢へと少しずつ変わっていく

 佳代子と娘・ミチル(真凛)のやりとりは心を打つ。今から2年前、ミチルは妊娠したこと、そして結婚することを佳代子に打ち明けた。シロさんの前にいる時とは異なり、ミチルはどこか気まずそうで、佳代子もまた話を聞き入れつつも返答に慎重な様子だった。田中と真凛がお互いにやや居心地の悪そうな雰囲気をごく自然に演じていたことで、この2人の親子としての関係性が現実味のある姿で感じられた。

 良くも悪くも素直な性格のミチルは、仕事と子育ての両立への不安を赤裸々に言葉にしていくが、ふと決心したように一呼吸おいてこう口にする。

「子どもを作らない理由にはなったけど、できた子どもを生まない理由にはならなかったんだよね」

 ミチルを演じる真凛の、不安げだが未来に目を向けた顔つきが心に残る。妊娠・出産という変化に不安がないわけではない。けれどミチルの表情と、はっきり言い切った様子から、佳代子だけでなく視聴者も、ミチルの覚悟を感じとったはずだ。

 ミチルの覚悟を知った佳代子の返答も良い。不安を覚えるミチルに佳代子は満面の笑みでこう伝えた。

「大丈夫、すぐに子どもがいる毎日の方が普通になるよ」

 この言葉も佳代子の声色も、佳代子がミチルの頬に当てた手も、そのすべてがあたたかく感じられた。これは佳代子がミチルに向けた変わらない愛情だ。これから親になる娘を、佳代子は見守る。変化があるからこそ、変わらないものがあることを感じさせる印象的な場面だった。

 「変わらないのがいい」と答えたシロさんだが、決して意固地になって変化を拒んでいるわけではない。シロさん自身は気づいていないのかもしれないが、シロさんもきちんと、少しずつ変化している。

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