『大病院占拠』櫻井翔が24時間走りっぱなし! 第1話から観直して気づく巧妙な伏線
放送時には“鬼”役を演じる10人のキャストが誰なのか、SNS上では考察合戦が白熱していた『大病院占拠』。そのBlu-ray&DVDが10月18日にリリースされるわけだが、キャストがあらかじめ判っている状態で観たからといってその楽しみが半減するわけではない。もっぱら“キャスト考察”は、第3話から第5話にかけて描かれる答え合わせも含めて、録画・後追い視聴が主流となった昨今に、リアルタイムで観るということに特別な意味をもたらすための演出だったといえるだろう。
実際、第6話以降のドラマ終盤戦においては、大病院を占拠した10人の鬼たちの顔も名前も明かされた状態で進行し、物語のフックは彼らがなぜ病院を占拠するに至ったのか。その目的やバックグラウンドへとシフトしていくことになる。そこには主人公を含めた多くの登場人物たちの過去や思惑が絡み合い、一般的なミステリードラマ以上に考察の余地が残されている。しかも前半戦、それこそ一見関係のなさそうな冒頭シーンからその伏線が器用に張り巡らされていたとあれば、「鬼役は誰か?」という部分に気を取られずに観進めることができるだけ、純然とドラマに没頭することができよう。
刑事の武蔵三郎(櫻井翔)は、事件の捜査中に犯人の命を奪ってしまい、休職することに。妻・裕子(比嘉愛未)が心臓外科医として働く界星堂病院の心療内科に診察に訪れた三郎は、病院のトイレで爆発物を発見。間一髪のところで難を逃れる。しかし、すでに病院には鬼のお面をかぶった武装集団が侵入しており混沌とした状態に。鬼たちに気付かれないように身を潜めた三郎は、県警本部の同期・和泉さくら(ソニン)へと連絡し病院内の状況を伝える。人質のなかに裕子がいることを確認した三郎は、病院内に残って戦うことを決意する。
全10話の構成で描かれるのは、鬼たちが病院に立てこもってから丸一日、わずか24時間での出来事だ。それをより効果的に描くためか、三郎が病院から(ほとんど常人にはあり得ないほど強靭な体力で)抜け出してからは、鬼たちが病院内からのライブ配信で告げる指令をひたすら三郎が走り回ってこなしていくというタイムリミットサスペンスの様相が展開していく。高度かつ最新鋭のセキュリティを擁した大病院を占拠するという大掛かりな事件が、鬼たちと警察の一騎打ちムードにライブ配信の視聴者をも巻き込むことで、きわめて大規模な劇場型犯罪へと拡張していくのだ。
そして暴かれていくのが、病院関係者たちの“罪”。その一連は、現実世界でも頻繁に見受けられるネット上での私刑を彷彿とさせ、現代社会における善と悪の境界線の朧げさをも露呈させていく。こうした現代的な問題提起ともいえる描写が、“立てこもり”というどこか古典的なシチュエーションをよりリアリティあるものへと昇華させる。それは終盤で明らかにされる界星堂病院に隠された極めて重要な“秘密”についても同様であり、あえて詳しく言及することは避けるが、第1話の早い段階からそれを予感させる描写が登場していることには触れておく必要があるだろう。