『らんまん』綾と竹雄のまっすぐで美しい歩み 佐久間由衣&志尊淳に最大の賛辞を贈る

『らんまん』佐久間由衣&志尊淳の功績

 いよいよ最終週を迎えた『らんまん』(NHK総合)。第24週、第25週とそれぞれの“再出発”とも言えるターニングポイントが描かれた中に、万太郎(神木隆之介)の姉・綾(佐久間由衣)とその夫・竹雄(志尊淳)がいた。

 綾と竹雄が上京時に人知れず胸に抱いた希望がようやく実を結んだのだ。“火落ちをしない方法が知りたい”という、綾にとってもはや唯一とも言えるだろう願いが藤丸(前原瑞樹)によって叶えられた。屋台を始め、その時が来るのを腐らずずっと待ち続けた綾と竹雄夫婦に、ようやく「新しい酒造り」という積年の夢が現実味を帯び始めた。また彼らの人生が大きな音を立てて動き出した瞬間だった。

 幼い頃から酒造りに魅了されながらも、女人禁制の酒蔵ゆえもっと生家「峰屋」の仕事に深く関わりたい気持ちを押し殺しつつ、抑えきれない興味やときめきが溢れ出す綾の素直な姿が思い出される。そんな綾のひたむきさやエネルギッシュさを佐久間が好演してきた。幼少期からずっと周囲から刷り込まれてきた諦めを滲ませながらも、酒造りのこととなれば声は弾み、目は燦々と輝く条件反射的な“好き”が綾の中に自然と育まれている。だからこそ、そんな彼女が「“決まり”だから」というその一言だけで“穢れ”だと一蹴されてしまう様子には胸が痛んだ視聴者も多かったことだろう。

 そして、ずっとそんな綾に好意を寄せ続けていたのが竹雄だ。それと同時に竹雄は幼い頃より万太郎にとっても唯一の親友であり、どこに行くにも一緒のお目付役だった。万太郎を“この身に代えてもお守りする”という峰屋当主で万太郎の祖母・タキ(松坂慶子)との約束をとにかく忠実に守り抜こうとする竹雄の律儀さや甲斐甲斐しさには目を見張るものがあった。歳が近く自分だって自由に気の赴くままに遊びたいことだってあっただろうに、自身の“好き”に真っ直ぐな万太郎のことをもちろん見下すでも見放すでもなく、ずっと見守り、信じ、励まし続けてきた。

 “他人のために”、“務めのために”と自然と様々なことを引き受けられる、それなのに決して出過ぎない成熟ぶり、俯瞰の観察眼が光っていた幼少期のまま青年になった竹雄を志尊が体現した。

 成長するにつれ、竹雄には万太郎や綾と違って自分には“これだ”と心に決めたもの、誰にも負けないと思うものがないと進路に悩む時が来るのだが、灯台下暗しとはこのことだ。“好き”に真っ直ぐな人の熱量に敬意を払い、同じくらいの熱量で応援し、見守り、サポートし続けられる。時には自分のことなんか後回しで、自分のこと以上に誰かのために悔しがったり憤ったりできる。そんな到底誰にも真似できないとっておきの才が竹雄には備わっていることを本人以外の全員がわかっているし、認めていた。

 そこに本人が自覚的になっていく竹雄の、少し遅い“自我の芽生え”のようなものを志尊はとても丁寧にさり気なく見せてくれた。“自我の芽生え”は自身の“恋心の自覚”にも繋がるが、綾から蔵人の幸吉(笠松将)への片想いに気づきながらも、それをもそっと見守る竹雄の視線はあまりに切なかった。報われることがないとわかっていても自分だけの宝物をそっと胸に抱いたまま、決して相手にその想いを悟られまい、重荷になるまいと、ずっと近くでお仕えしたいと願う竹雄。特にあの女人禁制の酒蔵という環境下、かつ男尊女卑がごくごく当たり前だった時代においてどこか中性的な雰囲気を纏いながらも一本気のある志尊だからこそ、この竹雄という役柄を見事あそこまで魅力的に成立させられたのだろう。

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