今期一番の完成度! 深川麻衣×前田敦子×石井杏奈の印象を変え続けた『彼女たちの犯罪』

今期一番の『彼女たちの犯罪』

 『VIVANT』(TBS系)、『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)、『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)など、民放各局の気合が感じられる作品が揃った今夏ドラマ。その中で、最初から最後まで展開が読めないハラハラ度と、全く隙のない丁寧な作り・完成度の高さでナンバーワンだと思うのが、横関大の同名小説を深川麻衣、前田敦子、石井杏奈出演で連続ドラマ化した『彼女たちの犯罪』(読売テレビ・日本テレビ系)だ。

※以下、ネタバレてんこ盛り。ご注意を。

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 第1話では一見全く接点のない3人の日常がそれぞれに描かれる。

 大手アパレルで広報をしている日村繭美(深川麻衣)は、容姿端麗で仕事も充実しており、現在は恋人がいないが、周囲がどんどん結婚していく中でも自分はいつでも結婚できると高をくくっていた。ところが、仕事に対するプライドと責任感の強さから、後輩への物言いがパワハラとみなされ、総務部に異動になってしまう。

 転職活動はうまくいかず、結婚に逃げようとしても、マッチングアプリで男性が求める条件は「35歳まで」と、気づけば仕事も恋愛も崖っぷち。そんなとき、大学時代に自分に好意を寄せていた神野智明(毎熊克哉)と再会。智明はエリート医師になっており、既婚であることを隠していたことから、関係を持つように。

 一方、何自由ない暮らしを送る専業主婦の神野由香里(前田敦子)は、夫・智明に家政婦扱いされ、セックスレスで、姑には子作りをせかされ、大学病院院長候補の嫁として支えるようプレッシャーをかけられ、日々に息苦しさと孤独を感じていた。そんな中、智明の浮気が発覚。さらに、夫を小学生の頃から知る近所の玉名翠(さとうほなみ)との出会い・交流を機に自由を求めるようになり、離婚を決意。智明の不倫相手・繭美に近づき、智明と離婚するための協力を求める。

 また、そこからちょっと離れた場所で「蚊帳の外」状態に見えたのが、新人刑事・熊沢理子(石井杏奈)だ。理子は交番勤務を経て、最近、念願の刑事になったばかり。歓迎会なども辞退し、淡々と仕事をこなすように見える理子だが、それはまだ幼い大輔(高木波瑠)が家で待っているためであることがわかる。「被害者や遺族にとっては、警察の捜査が終わっても、ずっと事件と向き合い続けなきゃいけませんから」と正義感を見せる場面もある。

 また、実は理子は繭美の大学時代のチア部の仲良しの後輩だった。かつての繭美について由香里には「自分をしっかり持っていて、華やかでかっこよくて、他人に優しい」と評している場面もあった。一方、繭美はそんな理子が智明に関心を寄せていると思い、智明と2人になれる機会をセッティングしたこともあったが、理子は突然大学を中退してしまい、その後音信不通になっていた。

 全く接点がなさそうに見えた女性たちは、智明という男性を軸に、妻と愛人、大学時代の知人、幼い頃からのご近所という形でつながっていた。

 そんなある日、由香里が失踪。伊東の海で由香里と思われる遺体が発見されるが……。

 本作が圧巻なのは、登場人物の見え方がくるくる変わっていくこと。

 最初は、かごの中の鳥状態で抑圧された主婦を演じる前田敦子が圧倒的に強い陰を見せていた。もしかしたらその強い負のオーラで、他の出演者たちを完全に食ってしまうのではないかと思うほどに。

 しかし、両親を事故で失い、教師の仕事もやめて、海外に出かけては死に場所を探しているという翠と出会い、自由に生きるよう諭されると、目の色が一変。ギラギラと危ういエネルギーに満ちていく。

 一方、アイドル時代にはおっとり優しく「聖母」とも呼ばれた深川麻衣は、本人のパブリックイメージもあって、最初はバリバリ働く気の強い女性役にいまひとつ似合わない気もした。

 しかし、そんなイメージが、由香里が繭美に接近してから変わっていく。繭美はもともと智明が既婚であることを知らずに深い関係になってしまっただけだったため、不倫を悔やみ、身を引こうとする。しかし、それを引き留めるのが、智明との離婚を企てる由香里だった。

 由香里は離婚後に1人で生きていくため、慰謝料を智明からもらうべく、不倫の証拠を得ようとしており、不倫相手の繭美に協力を依頼する。これまでに見せたことのない生き生きした様で繭美に協力を迫る様も、翠が死のうとしていると察すると、全く接点がない、出会ったばかりの繭美にそれを止めてくれと無茶な頼みを真っすぐな目でする様も、異様だ。

 このあたりまでは、繭美が智明に騙された被害者で、なおかつ友達がいなくて思い込みが激しいヤバイ女(由香里)にロックオンされた気の毒な女性に見えていた。しかし、そんな由香里に対し、繭美は最初こそ怯むが、しおらしく謝罪したり涙を見せたりしない。

 異様なスピードで距離を詰めてくる由香里に線を引き、嫌なことは嫌ときっぱり言い、断る強さに、「元チア部」「アパレル広報」「モテてきた女性」のプライドや気丈さが見える。それでいて、結局、由香里に付き合い、巻き込まれていくお人好し具合と、智明が大学病院院長候補と知ると、仕事に行き詰まりを感じていることもあり、智明との結婚を夢見るようになる弱さは、等身大の女性のリアルさを感じさせる。結果、深川麻衣に繭美は見事にハマっている。

 そんな2人に対し、途中まで分が悪く見えたのが、理子を演じる石井杏奈だ。特に薄幸さと抑圧された負のオーラと妖しいエネルギーをたたえる前田、揺れ動く心情をリアルに表現する深川に対し、理子は表情も乏しく、考えていることが読めない。刑事&繭美の後輩という立場で、物語の中心地から距離があるため、存在感が薄かったこともある。

 しかし、それが本作の意図で、視聴者は作り手に掌で転がされていたことが、後に見えてくる。

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