『こっち向いてよ向井くん』は歴代屈指の“ヒューマンドラマ”だ 恋愛への鋭い批評にも

『向井くん』は歴代屈指の“ヒューマンドラマ”に

 向井くんの妹・麻美(藤原さくら)と元気(岡山天音)は一度は結婚して、麻美の実家である向井家に同居していた。しかし、うっすらと自分や他者をごまかして無難な妥協点を探るようなことができない直情型の麻美は、他人に色眼鏡で見られたり役割を押し付けられる「結婚」という制度そのものに疑問を持ちだす。挙句、2人は離婚届を出し、戸籍上は「他人どうし」となったのだが、「ただ一緒にいたい」という原点に立ち返って、2人だけの、2人らしい生き方を、時間をかけて模索していくことを決めた。「人は『その人』であることを何よりも尊重されるべきだと思うんだよ」という、麻美の“ド直球”の言葉が刺さった。

 向井くんが10年間、その幻影を引きずっていた元カノ・美和子もまた、悩みを抱えていた。10年前、向井くんから「俺がずっと守ってあげたい」と言われて、スンッと真顔になっていた美和子。「結婚こそが幸せの結論である」という世間一般の価値観にずっと疑問を抱いていたが、長年自分の中でそれを明文化できずにいた。結婚はしたくないけれど、「シェーバーの彼」や、元カレの向井くんに一時の慰めや性愛は求めてしまう。そんなモヤモヤとした日々を送っていた美和子が、2児の母にして起業も考えている、サークル仲間の杉(野村麻純)から言われた言葉にハッとする。

「独身でも、結婚してても、母になっても、好きな仕事をしても、寂しい時は寂しい。だったら、そんなことにとらわれてないで、どうすれば楽しくなるかだけに全力を注ごうかなって。誰かに依存したりしないで、自分は自分の人生をめっちゃ楽しむ。そのために頑張ろうって」

 そして美和子も自分だけの生き方を探し求めると決意するのだった。こうして、登場人物たちが自分の足で立ち、社会規範の中での「あるべき自分」とゆっくりお別れして、自分らしい幸せを模索していく。幸せの価値は「相対評価」ではない。「絶対評価」だ。どんな形であれ、自分が幸せだと思うことが幸せなのだから。

 このドラマを観ながらずっと、『こっち向いてよ』の「こっち」とはどっちなのかとずっと考えていたが、それはつまり、「向かい合うべきところ」という意味なのではないか。人生の岐路に立った向井くんが、過去の自分の未熟さと向き合い、今の自分と向き合い、人と向き合い、真実を探す。

 最終回、向井くんが洸稀と築いた「名前はないけれど、尊い関係」に「恋人」という名前をつけてしまうのだろうか。向井くんが出す「幸せ」の結論とは、どんなものなのか、見守りたい。

■放送情報
『こっち向いてよ向井くん』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:赤楚衛二、生田絵梨花、岡山天音、藤原さくら、財前直見、森脇健児、内藤秀一郎、上地春奈、岩井拳士朗、若林時英、田辺桃子、久間田琳加、市原隼人、波瑠
原作:ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:渡邉真子
演出:草野翔吾、茂山佳則ほか
音楽:FUKUSHIGE MARI
チーフプロデューサー:三上絵里子
プロデューサー:鈴木将大、柳内久仁子、妙円園洋輝
協力プロデューサー:福井芽衣
制作協力:AX-ON、ダブ
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
©︎ねむようこ/祥伝社フィールコミックス
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/mukaikun/
公式X(旧Twitter):@mukaikun_ntv
公式Instagram:@mukaikun_ntv

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