『こっち向いてよ向井くん』は“ハッピーエンド”を描けるか “男と女”の先にあるもの
さらに、第8話で描かれたのは、一見順調で迷いなく、割り切って「大人の恋愛」を楽しんでいるかのように見えた洸稀と環田の心の奥に秘めた弱さだった。2人が「おいしいとこだけ食べ合う恋愛」でいいと思う理由は、洸稀にとっては、かつて恋人に自分の素の部分を見せたら失望されたことへの戸惑いだった。一方、環田の言葉の端々に滲むのは、結婚した後に自分と全く異なる価値観を突きつけられた時の当惑と、深い失望である。
「人の素の部分っていうか、本性っていうか、深い感情と向き合うのが、向いてない。私自身も見せたくないし」という洸稀の気持ちはよく分かる。気づけば私たちは、自分が傷つかなくていいように、相手を傷つけなくていいように、何重にも防御線を張って、完璧なファッションで自分自身を武装して、隙のない微笑みを浮かべ、日々を生きている。
でも、折れたヒールと、水に濡れた靴を手に持って、不完全な「私」のまま走って、偶然会えたことに喜び、笑う2人に、そんな恐れは無縁である。時に酔っぱらって、時にカラオケでオールした身体の疲れもそのままに、ファミレスで朝ごはんを食べる。一切の駆け引きも打算もいらない関係。本当は、「男と女」であると意識することをやめたら、それぞれのジェンダーロールや、長年植えつけられた諸々の意味付けさえ取っ払うことができたなら、誰もがもっと、こうやって自由に歩み寄れるのだろうか。
これまで多くのドラマが、主人公と相手役のみならず、脇役の隅々の役柄に至るまでのカップリングを成立させることで「ハッピーエンド」としてきた。つまりそれは全ての人々にとって、愛する人と対になることこそが「幸せになる」ということだと思われていたから。でも、そうとは限らない。100人いれば100通りの「幸せ」に向かって、私たちは生きていく。いよいよ最終回直前。それぞれにとって、本当の意味でのハッピーエンドを期待したい。
■放送情報
『こっち向いてよ向井くん』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:赤楚衛二、生田絵梨花、岡山天音、藤原さくら、財前直見、森脇健児、内藤秀一郎、上地春奈、岩井拳士朗、若林時英、田辺桃子、久間田琳加、市原隼人、波瑠
原作:ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(祥伝社フィールコミックス)
脚本:渡邉真子
演出:草野翔吾、茂山佳則ほか
音楽:FUKUSHIGE MARI
チーフプロデューサー:三上絵里子
プロデューサー:鈴木将大、柳内久仁子、妙円園洋輝
協力プロデューサー:福井芽衣
制作協力:AX-ON、ダブ
製作著作:日本テレビ
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