『らんまん』浜辺美波の痛快な姿が作品の骨格に 寿恵子に取り入られている令和の価値観

『らんまん』に組み込まれている令和の価値観

 『らんまん』の万太郎は、夜遅くまで働き、疲れて帰ってきた寿恵子の肩をもみ、あたたかいお茶を出す。そして、寿恵子の大事な『南総里見八犬伝』が質に入れられたことを知って、それはあってはならないと働く決意をする。子育ても、それなりに引き受けている。なにより、寿恵子を一途に愛している(第104話)。万太郎は、好きなことに没頭するのもいいけれど、助けてくれている人たちがいることに配慮する人物となっている(なぜか田邊にだけはうっかりしてしまっているのはドラマの都合であろう)。実際、こういう人だったら、モデルとその妻の人生も変わっていたのではないか。

 過去の朝ドラでは『マッサン』も『エール』も、夫に尽くした妻は夫より早く亡くなっている。『マッサン』も『エール』も妻が亡くなるところが物語のピークになる。果たして『らんまん』はどうなるだろうか。一方、『ゲゲゲの女房』や『まんぷく』のモデルの妻は夫より長く生きている。必ずしも夫に尽くすと早死するというわけではないことがわかる。できれば苦労した妻のほうが長生きするエンドが理想的だと感じるがいかがであろうか。

 基本的には女性視聴者のほうが多いドラマである朝ドラで、女性が感情移入する妻側が早死してしまうとき、女性は、ああ自分もがんばった、そして感謝してほしい、惜しんでほしい、永遠になりたいという望みを満たし、早死しない場合は、このまま一緒に冒険の道を歩んでいく充実感に浸る。これが朝ドラの楽しみ方のひとつなのかもしれない。

 ちなみに、『らんまん』は万太郎も田邊も優秀過ぎて、彼らの思想や美学は庶民にはなかなか手に届かない。最も庶民感覚なのは藤丸(前原瑞樹)であろう。田邊の訃報に際して、「大学が教授、殺したようなもんじゃない!」「これ、本当に事故!?」と率直な意見を述べる(第101話)。突き詰めればドラマの原点でもある古代ギリシャ劇は、身分の高い人たちが主要人物ながら、コロスという民衆代表の役割があり、主要人物の物語を傍観し、いろいろ語る構造になっている。藤丸とはまさに、コロスである。彼のような視点があるからこそ、『らんまん』は普遍性を保てているのである。ちゃっかり心づけを稼いでいる料亭の仲居頭マサ(原扶貴子)も庶民の視点である。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】 
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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