『あしたの少女』は生々しく現代の闇に切り込む秀作 結末を見届けたあなたは何を思う?
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、最近家での映画・ドラマ鑑賞のために氷が溶けにくいタンブラーを購入した橋本が『あしたの少女』をプッシュします。
『あしたの少女』
本作は、2017年に韓国の全州市で実際に起こった、大手通信会社のコールセンターの現場実習生として働き始めた高校生が、3カ月後に自ら命を絶つという悲劇的な事件の全貌を映画化した社会派ヒューマンドラマ。現代社会に対する若者の絶望感や諦めなどがとても生々しく表現されており、鑑賞しながら苦しいと感じたり、自分の現状と重ねて考えてしまう人も多くいるだろう。
2人の主人公を演じたキム・シウンとペ・ドゥナが作品を通して訴えることは、まさに今を生きる私たちに突き刺さる。利益優先の企業における労働の搾取を繰り返す会社/上司になればなるほど無責任な言い訳と責任の転嫁を繰り返す。そんな現代社会に対する監督が持つ社会への怒りや問いかけが強く込められた138分だ。
本作は2つのパートで構成されている。物語は、職業高校に通うキム・ソヒ (キム・シウン)が必死にダンスを練習しているシーンから始まる。その後、ソヒは学校の先生にコールセンターでの仕事を斡旋され、流れるように気がつけば現場実習生として働くことになってしまう。そこからは現場実習生とは名ばかりの労働搾取のシーンが続く。低賃金での労働と厳しいノルマが課せられていくソヒ。仕事内容は、インターネットや携帯電話の契約を解除しようとして電話をかけてきた顧客に対応し、解除せず契約継続するよう仕向ける内容だ。そこでソヒは毎回に及ぶ罵詈雑言やセクハラのような電話対応に追われていく。
最初はなぜクレーマーたちは毎回こんなに怒っているのだろうと思ったのだが、契約を解除したくて電話をしてくる相手に対して解除させないためにわざと電話を切ったり、たらい回しにしたりなど、相手が怒って当たり前の対応がマニュアルとしてソヒには用意されていたのだ。とにかく契約の解除を防げればそれでいいという考えにゾッとした。