『あしたの少女』は生々しく現代の闇に切り込む秀作 結末を見届けたあなたは何を思う?

『あしたの少女』は現代の闇に切り込む秀作

 そんなソヒに大きな転機となる事件が起こる。時々優しい言葉をかけソヒを指導していた若い男性チーム長が、会社の敷地内に止めた車の中で自殺をしたのだ。車にあった遺書は会社を内部告発する内容だったが、会社側は自殺したチーム長への弔問や外部に話すことを禁じ、働くスタッフ全員に誓約書にサインさせ隠蔽する。その後ソヒは新たに派遣されてきた新チーム長から目を付けられ、毎日名指しで批判される日々が続きながらも必死に仕事をこなしていく。ついには仕事に対する成果給の支払いも「実習生だから」という理由で先送りにされ、全てに絶望したソヒは貯水池に進んでいく……。

 この最初のパートでは、ここまで書いたソヒが精神的にも、肉体的にも絶望していく姿を約72分を使いたっぷりと見せつける。ここが本作の大きな特徴である。じっくりと表現することにより観客の脳裏に深くソヒの苦しみや絶望の表情が突き刺さる。演じたキム・シウンの怪演を是非観てほしい。彼女が絶望の中で何に光を見出したのかを感じてほしい。

 後半は刑事のオ・ユジン (ペ・ドゥナ)のパートとなり、この事件の真相を調査する姿が描かれる。学校と企業の癒着、本来子供を守るはずの社会のシステムがどれだけ崩壊していて、命を軽視しているのかをユジンが信念を燃やし捜査していく。その姿を鑑賞してこの映画の結末を見届けてもらいたい。そして映画の最後に映るソヒが生きた証に胸が詰まるだろう。

 この映画は決して外国で起きた事件なのではない、世界中、日本でもどこかで起きていることであり、ソヒはあなたであるかもしれないのだから。

【公式予告編】『あしたの少女』8/25(金) より全国順次公開

■公開情報
『あしたの少女』
シネマート新宿ほかにて公開中
監督・脚本:チョン・ジュリ
出演:ペ・ドゥナ、キム・シウン、チョン・フェリン、カン・ヒョンオ、パク・ウヨン、チョン・スハ、シム・ヒソプ、チェ・ヒジン
配給:ライツキューブ 
2022/韓国/5.1ch/138分/DCP 
©2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://ashitanoshojo.com/

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