20年後からの手紙が私も心から欲しい 『未来』を観て“想像する”大切さを噛みしめる

『未来』“想像する”大切さを噛みしめる

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は未来を模索中の石井が『未来』をプッシュします。

『未来』

 ケツメイシの「手紙〜未来」という曲を、ふと思い出した。

〈まだ見たことない未来で 勇敢に戦う俺がいる きっとそうだろ どうなの? 未来のみんなの 状況は!?〉

 この曲をよく聴いていた高校生の頃、部活の試合や受験前に、リフレインされるこの歌詞に励まされ、未来はきっと大丈夫だと思えた。そして、自分もいい大人になれると信じていた。なれると、というよりも、なれて当然だと思っていた気すらする。

 その頃から約20年が経った。正直なところ、あの頃思い描いていた大人には、まったくなれていない気がしている。勇敢に戦っているどころか、敗北の日々と言ってもいいかもしれない。それでも、「手紙〜未来」とのリンクも感じる映画『未来』を観たとき、これまでの自分の数十年と、そしてこれからの未来に向けて、もう一度頑張ろうと思わずにはいられなかった。

 瀬々敬久監督の『未来』は、湊かなえがデビュー10周年に発表した集大成ともいえる同名小説の映画化だ。主人公の章子(山﨑七海)のもとに、ある日一通の手紙が届く。差出人は「20年後のわたし」。父親を亡くし、深い悲しみの中にいた章子は、半信半疑ながらもその手紙に返事を書き続けることで、孤独な日々をなんとか耐え忍ぼうとする。

 「手紙〜未来」が現在の自分から未来へ向けて放たれた希望の言葉だとすれば、映画に登場する手紙はその逆だ。未来の自分が、苦しむ過去の自分のもとへ降りてくる(大いなる仕掛けがあるのだが)。方向は正反対でも、どちらも根っこにあるのは「あなたには未来がある」というメッセージ。

 未来の自分からの手紙——そう聞くとファンタジーのように思えるかもしれないが、この映画が描くのは徹底してリアルな現実だ。シングルマザー家庭の貧困、母親の新しい恋人がストレスをぶつける暴力、学校での壮絶ないじめ。「これほどまでに重なるものか」と眩暈がするほど、章子に降りかかる試練は苛烈を極める。特に、“匂い”に関するいじめはあまりにも酷く、胸が締め付けられて、思わず目を逸らしたくなる。

 それでも、この映画を観てよかったと心から思えたのは、そのしんどさの先にあった確かな未来と、“想像力”が生まれたからだ。いじめや貧困といった問題は、ニュースの言葉で見聞きしているだけではどこか他人事になりがちだ。数字やデータで「子どもの貧困率は○%」と聞いても、実感できるとはいえない。でも、章子が泥の中を歩くような日々を追っていくうちに、「こういう子が、今もどこかにいる」という感覚が、静かに自分の中に宿っていった。楽しいだけの映画ではまったくないし、観る前から覚悟は必要かもしれない。それでも、映画という形で触れることで初めて“想像できる”ことがある。本作はそれを強く実感させてくれる。

 章子を救おうとする教師・真唯子を演じる黒島結菜の芝居は、まっすぐさゆえに胸が痛くなるほどだった。自身も複雑な過去を抱えながら、それでも章子に手を伸ばそうとする真唯子の姿は、理想論でも綺麗事でもなく、ただひたすらに誠実だ。他者とかかわることがどうしても難しくなってしまった現代の中で、それでも一歩踏み出すことで誰かの人生を救うこともあることを、彼女の姿が教えてくれる。そして章子役の山﨑七海。映画『渇水』でも確かな演技力を見せていたが、本作の芝居でこれからの日本映画界を背負うことができる俳優であることを証明してみせている。

 「誰かを救おうとする人間になりたい」。編集作業を経て、それが本作の目指す場所だと気づいたと瀬々監督は語っている。未来からの手紙を書いた人物の正体、そしてその目的。すべてが明かされるラストに向かって、物語は収束していく。そこで明かされる真実は、単なるどんでん返しではなく、「誰かを想うこと」の輪郭をくっきりと浮かび上がらせるものだった。

 高校生の頃に思い描いていた“勇敢な自分”にはなれなかった。でも、本作を観て、なれていなかったことを嘆くより、今からでも遅くないと思えた自分がいた。20年後の自分から手紙が届かないのなら、せめて今の自分が、誰かにとってのその手紙になれるよう生きていきたい。

■公開情報
『未来』
全国公開中
出演:黒島結菜、山﨑七海、坂東龍汰、細田佳央太、近藤華、松坂桃李、北川景子
原作:湊かなえ『未来』(双葉文庫)
監督:瀬々敬久
脚本:加藤良太
イメージソング:Uru「さすらいの唄」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:東京テアトル
企画・制作プロダクション:松竹撮影所
製作幹事:東京テアトル、U-NEXT
© 2026 映画「未来」製作委員会 ©湊かなえ/双葉社
公式サイト:mirai-movie.jp
公式X(旧Twitter):@eiga_mirai

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「週末映画館でこれ観よう!」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる