『らんまん』神木隆之介の変化が問われる田邊の訃報　手を取り合えないカギは他者理解？

　いっぽうの万太郎はというと、絶えず田邊を尊敬していた。感謝の気持ちも持ち続けていた。だが、自身の研究に没頭するあまり、その気持ちが薄れてしまってもいただろう。そこに亀裂が生じたわけである。やはり尊敬の念というものは、積極的に訴えていくべきなのだ。それも、明確に相手に伝わるよう注意を払いながら。この根幹をなす部分に「他者理解」が不可欠なのだと思う。

　つまりそれは相手の才能を称揚するばかりでなく、相手の置かれている状況や、そのときどきの心情までをも理解するということ。いや、理解しようと努力するということである。無邪気な万太郎にもプライドの高い田邊にも、これが欠けていたように思うのだ。

　前作『舞いあがれ！』（NHK総合）のヒロイン・舞（福原遥）は万太郎たちとは逆で、何よりもまず他者を理解しようとする人物だった。周囲の一人ひとりに対して誠心誠意をもって向き合おうとするキャラクターだった。多くの視聴者が彼女の優しさに癒やされたことだろう。しかしそうであったがために、彼女は幼い頃から思い描いていた道から外れていかざるを得なかったのだ。もちろん、何が正解で何を幸福とするかは本人しだいである。

　自身の人生において大きな存在であった田邊を失った万太郎は、ここからさらに変わっていくのではないかと思う。妻の寿恵子（浜辺美波）も、相棒の竹雄（志尊淳）も、姉の綾（佐久間由衣）も、万太郎の植物学者としての才能ばかりを支持していたわけではない。好きなことに真っ直ぐな彼の性格あってのことではあるが、もっといろいろな面を誰もが理解しようと努めてきた。万太郎の変化（＝人間としての成長）が問われる時期なのではないだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回（全26週）】
総合：午前8:00〜8:15、（再放送）12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K：7:30〜7:45、（再放送）11:00 〜11:15
出演：神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作：長田育恵
語り：宮﨑あおい
音楽：阿部海太郎
主題歌：あいみょん
制作統括：松川博敬
プロデューサー：板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出：渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供＝NHK