『VIVANT』が提示する家族の愛憎劇 ダークサイドの役所広司と堺雅人に新味
幼少期に虐待を受けて人格が分裂するというドラマや映画でよく見られる設定は、乃木の場合も当てはまる。Fはファーザーの頭文字で、父を知らない乃木にとって理想の父親像を内面化したとも考えられる。ノゴーンとの対決は、乃木と2人の父親の葛藤でもある。父殺しという古典的なテーマと対照的に、家族の愛情はもっぱら母親に投影される。Fがたびたび指摘した薫(二階堂ふみ)に対する感情は、異性なかんずく母への思慕を秘めており、乃木は薫の中に母の面影を感じていた。後に薫を襲う悲劇が予想されるところだが、薫自身も経歴が不明な点があり、ひねりを加えてくる可能性はある。
本作は「悪」を正面から描く点に特徴がある。汚職を許さないノゴーンの言動は、究極の正義が悪へ転化するお手本のようで、弱さを許さない正しさが人間を救うかという問題意識が潜んでいる。勧善懲悪を描いた日曜劇場が、正しさに傾斜するあまり飽和状態に陥った反動のようでもある。正義の側の主人公を演じてきた堺雅人や役所広司が、手段を選ばないダークサイドを演じる姿は新鮮だ。
ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)が「奇跡の子」と呼ばれる意味だったり、天才ハッカー太田を演じる飯沼愛の演技度胸、花江夏樹がニュースキャスター役で登場するなど見どころの多かった第6話は、加速度的に進展する本作の鍵となる重要回だった。すべてを解説するには字数が足りず、読者諸氏の考察にゆだねたい。
■放送情報
日曜劇場『VIVANT』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
©︎TBS