『らんまん』浜辺美波の素晴らしい熱弁劇 借金取りの心をも動かす寿恵子は“八犬士”

『らんまん』“八犬士”寿恵子の巧みな熱弁劇

「Adversity is the first path to truth(逆境は真理に至る最初の道)」

「This is the mark of a really admirable man: steadfastness in the face of trouble(苦難の時に動揺しないこと。これが真に賞賛すべき卓越した人物の証拠である)」

 丈之助(山脇辰哉)の書いたバイロンの名言に続き、ベートーヴェンの名言が書かれたついたてで借金取りから隠れる万太郎(神木隆之介)。まさに細かい美術が物語の精神を表す『らんまん』(NHK総合)第97話では、“軍師”・寿恵子(浜辺美波)と借金取りの磯部(六平直政)の見事な“タイマン”が描かれた。

 大学への出入りを禁じられ、自腹で外国の書籍を買うようになった万太郎。一冊100円から200円もする書籍は、印刷機が1000円だったことを振り返ってもやはり高級だ。そんな本を買い始めてから半年の時点ですでに何冊にもなっていた様子にギョッとしてしまったのも束の間、あれから3年の月日が経った。本を買い出してからレベル違いの出費を重ねていた万太郎の借金が膨れ上がったことは、何も不思議なことではない。

 借金取りの磯部がやってきたことを知らせる“旗”を見つけ、万太郎は波多野(前原滉)、藤丸(前原瑞樹)とともに別宅で息を潜める。藤森に借金のことを聞かれても、お金のことはすべて寿恵子に任せているからと言って、万太郎本人がその金額を知らないという恐ろしい事実が判明する一方、寿恵子は磯部に堂々と対峙し彼に説得をする。支払える分だけは支払うが、石板印刷を売れと言われても売らない。それどころかその価値、そして万太郎の研究や図譜の価値を熱弁するのだ。口達者な寿恵子に乗せられる磯部役・六平直政の受けの演技も見事なだけに、彼女の借金取り撃退劇は見事なものだった。なんと言ったって、払わないどころかさらに追加の融資をさせてしまうのだから敵わない。

 以前、自分には取り柄がない、『南総里見八犬伝』で例えるなら「戦いを見てる村人、または草むら」と言っていた寿恵子が綾(佐久間由衣)から反論されたことを思い出す。あの時から、彼女は自分にできる戦いを探し、そして見つけたのかもしれない。万太郎の将来に投資させるための熱弁は、ずっと側で彼が何をしているのか見つめながら“一緒になって”やってきた寿恵子だからこそできたこと。その彼女の夫を思う気持ちも含め、磯部は心を動かされたのではないだろうか。借金取りの彼にも利が出るように、部数が増えた際は謝辞を載せるなど気配りも忘れない。追加で200円を借り、図譜まで買わせ、万太郎には一刻も早く版元を探すよう発破を掛けた寿恵子は、間違いなく“八犬士”だった。

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