『D.P.』シーズン2が突きつける“傍観者”への問題提起 チョン・ヘインのアクションシーンも

『D.P.』S2が世界に訴えるメッセージ

 『かもめ』の中のニーナが、憧れの作家トリゴーリンに紹介されたように、ソンミンがニーナとして憧れの演出家に会い、夢を持ち、イギリスへ渡ろうとする姿は、観る者に応援の気持ちを持たせ、彼女の新天地での成功と幸せを見たいと願わせる。ニーナを演じたペ・ナラは、ミュージカル俳優として2013年にデビューし、以降数々のミュージカル作品に出演。2018年には『キンキブーツ』でドラァグクイーン役も務めた。本作がドラマデビュー作だが、劇中でペ・ナラがソンミン=ニーナとして、さすがの歌声で歌い上げたミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の挿入歌「Wig In A Box」も、ヘドウィグが性別適合手術を受けた人物であったりと、演出の妙が光る。

 さらに、軍の中でも北朝鮮との非武装地帯のGPで起きた事件の関係者である、シン・アフィの物語も凄まじい。地雷を踏み亡くなった兵士の事件を調査するジュノたちを前に、二転三転する事件の様相に、一体何が真実なのかがわからなくなる。この場面のイム・ジソプ大尉を演じるソン・ソックの迫力ある熱演は目が離せなくなる。アフィを演じるチェ・ヒョヌクの演技も見事で、緊迫感ある2人の演技合戦に引き込まれる。

 シーズン2では、ジュノのアクションシーンも大幅に増え、電車の中で大勢相手に戦う姿も見ることができる。コ・ギョンピョ演じるパク・ソンウと死闘を繰り広げるシーンは、チョン・ヘインが『コネクト』で演じたハ・ドンスとコ・ギョンピョが演じた殺人鬼オ・ジンソプの死闘をパラレルワールドで観ているかのよう。

 本作は、シーズン1からシーズン2にかけて、毎話、物語の前に「大韓民国の男子は法の定めるところにより 兵役義務を遂行しなければならない ー大韓民国兵役法ー」というテロップが出るのだが、物語の終幕となる第12話では「すべての国民は人間らしく生きる権利を有する~途中略~国民を保護するため努力しなければならない ー大韓民国憲法ー」となり、改めてこの作品が世に訴えたいメッセージが強く残る。

 本作の演出を務めるハン・ジュニ監督は、クリエイティブディレクターとして参加した『弱いヒーロー Class1』でも、学園生活内での理不尽な暴力を描いており、アメリカの『Forbes』誌で「2022年最高の韓国ドラマ20」に選出された。

 チョン・ヘインをはじめとする俳優陣の熱い体温が伝わってきそうな圧巻の演技と、傍観者から何ができるかへと進化していく胸に爪痕を残す物語は、シーズン1と2を通して世界へ大きな影響を与えていくだろう。本作が世界に与えた影響により、韓国の徴兵制度に絡む軍内部の理不尽で不正義な暴力が目に見える形で、早急に改善されることを願ってやまない。そして、この作品を観た世界の人々が、暴力から脱却する方向へ歩みを進めることを信じたい。

■配信情報
『D.P. -脱走兵追跡官-』シーズン2
Netflixにて独占配信中
出演:チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン
原作・制作:ハン・ジュニ、キム・ボトン

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