『らんまん』悲劇がこれだけ短期間に起きるとは 善人VS悪人にしない脚本の容赦のなさ

『らんまん』容赦のない長田育恵の脚本

 悲しみが踵を接する。NHK連続テレビ小説『らんまん』第18週「ヒメスミレ」では、万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)のみならず、峰屋の綾(佐久間由衣)と竹雄(志尊淳)にまで不幸が訪れた。

 どこから書いていいか困ってしまいそうな週だが、まず順に振り返ると、万太郎が完全に田邊(要潤)を怒らせてしまい、東大(帝大に改名)の植物学研究室を出禁に。博物館の野田(田辺誠一)と里中(いとうせいこう)に相談するも、大学と博物館の関係性があるため協力は難しいと言われてしまう。だがそこで一瞬、光が見えて、ロシアのマキシモヴィッチ博士を頼れば道が拓けると考えた万太郎は家族を連れてロシアに渡ろうと考える。またまた冒険がはじまるのかーと思ったら、生まれたばかりの園子を病魔が襲い死去。万太郎はまだ知らないが、渡航費を頼ろうと思っていた峰屋は腐造を出して店を畳むまでに追い込まれていた。

 一週間のエピソード(わずか数日の間と思う)にこれだけの悲劇をぶちこむのはなかなかすごい。モデルの牧野富太郎もこんなふうだったのか、と思って調べると、今週起こったことのほかにさらに衝撃的なことがあるようで、牧野富太郎の不屈の精神に驚くばかり。同時に、ずっと寄り添っていた妻も。ふたりをモデルにして描かれている万太郎と寿恵子も、なかなか。大きなことを成し遂げる人物は、常識にとらわれず、強靭なメンタルを持っているのだとつくづく思う。だからこそ、ドラマにもなり得るのだ。朝ドラでは、かつて『純と愛』(NHK総合)が次から次へと不幸な出来事が起こったように、さらに遡れば『おしん』(NHK総合)も主人公の受難が続いた。そういう作品が避けられる時代になったいま、久しぶりに現れた、辛口の展開である。

 これまでの、悲劇的朝ドラと違うのは、万太郎には主人公ながら、なかなか感情移入しづらくなっていること。そして、その周辺の、従来なら悪役になる田邊や、峰屋の分家・豊治(菅原大吉)、伸治(坂口涼太郎)、紀平(清水伸)の3人組に感情移入できるようになっていることである。これまでの悲劇的ドラマは、あくまでも主人公が正しく、周囲が悪く、「がんばれ主人公、やっつけられろ悪役」という図式であった。誰かが悪いことにして、いまのしんどい状況に折り合いをつけることが現実でも物語でも好まれた。が、『らんまん』はそうではない。主人公も良くないことがあるし、周囲もすべてが悪いわけではない。

 とはいえ、田邊はかなり、キツイことを万太郎に言うので、その言葉だけで、しんどくなる視聴者もいるようだが、田邊が東大植物学研究室の権威を高めるために政治力を活用し、そのため多くのストレスも抱えることになっているということには同情の余地もある。音楽や妻やシダを愛する穏やかな心も持っていることが丁寧に描かれ、人にはいろいろな顔があるのだなと思わせる。

 分家は分家で、綾たちが、「本家を代わりに継いでくれないか」と持ちかけると、やんわり断る。「本家だと威張っていたおまえらなんて潰れればいい」といった弱った綾たちの傷口に塩をすり込むようなことはしないのだ。ざまーみろ的なことを言うかと思えば、慈愛に満ちた口ぶりで、綾たちをねぎらう。タキ(松坂慶子)が頭ごなしに彼らを差別していたから、意地悪になっただけだったのだろう。とはいえ、情を出しすぎたら自分たちが潰れてしまう。だから、助けることはできないから、泣くしかない。

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