『らんまん』万太郎が朝焼けの中で見た“花”の意味 田邊との決定的な違いが浮き彫りに
どんな時にでも、そこに咲いている花はある。万太郎(神木隆之介)が『らんまん』(NHK総合)第87話で得た気づきは、これまでの彼ならいつもわかっていたことであり、それを見失った今を救うものだった。
文部大臣・森有礼(橋本さとし)の号令のもと、東京大学の理学部は帝国大学理科大学と改められ、田邊(要潤)がその初代教頭に就任。その間、万太郎は論文を書き直し、雑誌を刷りなおした。ちょうど寿恵子(浜辺美波)と雑誌を刷る紙代が高くて生活費が心許ないと話していたばかりなのに。表面的にはお互いそのことについて話さないが、互いに困窮する近い未来を確信したような表情で夫婦2人が黙々と雑誌作業に取り組む姿は、見ていてこたえるものがある。
研究室を締め出された万太郎は、やはり大学に用意されていたような本がなく研究も進まない。もともと自分のやりたいことに正直すぎて、逆にそれができなくなると一気にメンタルがぶれてしまうし、それを表に出しまくってしまう万太郎。そんな彼にも寿恵子は動じることなく、美味しそうな炊き込みご飯を作ってくれる。全てを静観して、ただ彼の心に栄養になる言葉をかけてあげたり、田邊の家に再び直談判しに行った万太郎を明け方まで待っていたり。今回は本当に、その溢れんばかりの寿恵子の“強さ”に、万太郎だけでなく、彼を見守る私たちも救われたことだろう。
家に遊びにきていた文部大臣の森を見送るときは「(万太郎が)君の学生か」と聞かれると黙って頷いていい顔をした田邊は、森がいなくなった途端「二度と来るな」と吐き捨てる。そんな彼をまだ信じ、赦しを乞う万太郎。田邊が万太郎を歓迎していたのは、植物学に注げる彼に熱い情熱に共感したからだ。そして万太郎はその志を一切曲げていない。彼は常に、植物学とともに生きている。そしてこれからも、その未来をこの学問に捧げる覚悟を持っている。そんな彼と対照的に描かれるのは、地位や名誉、プライドに溺れて信念を失った田邊。万太郎の好きだったところが、嫌いになってしまった。いきなり冷酷な態度を取られた理由をずっと知りたがる万太郎だが、そんなものはただの田邊のエゴでしかないのだから気の毒である。
自分はどれだけ植物を愛しても、万太郎のように植物に愛されない。花を咲かすことができない。体裁など関係のないことばかりに気を取られる田邊が、万太郎の持っているものを持っていないことに自覚的なのも、すごく人間臭い。それでも、もう突き進むしかないとヤケになるかのように縁側で強い酒を飲み干す姿は(それを「祝杯」と言って強がる点も含めて)、悲しいものがあった。