『らんまん』万太郎と田邊に必要な“お互いへのリスペクト” 2人の“自己実現”の大きな違い
さて、本稿の冒頭で述べたことをここで繰り返したい。いまのこの社会で自己実現を果たすことのできている人はどれくらいいるのだろうかーー。万太郎と田邊教授のどちらが私たちに近いかといえば、おそらくほとんどの方が後者だと答えるだろう。そうなのだ。さまざまな制約のあるこの社会において、真の自己実現は難しいのだ。
近年の朝ドラの主人公はどうだっただろうか。たとえば、前作『舞いあがれ!』(NHK総合)の主人公・舞(福原遥)はパイロットを目指していたが、ネジ工場を営む父の死や世界的な大恐慌により、その道を断念せざるを得なかった。そして彼女は父の遺志を継ぐ道を選んだ。幼い頃からの夢は叶うことがなかった。だが彼女は自らの意志で進むべき道を決め、自分らしく生きながら持ち前の優しさで多くの人々を救った(=社会貢献)。舞は最終的に自己実現を果たした人物だったのだ。こう捉えてみると朝ドラの主人公とは、たとえ当初の夢が叶わなかったとしても、誰もが自己実現を成し遂げているのではないだろうか。
現在の万太郎は自己実現を成し遂げ続けている。が、ちょっとしたボタンの掛け違いによって、田邊教授との仲が決裂してしまった。植物学教室への出入りができなくなれば、今後の自己実現は非常に困難なものとなるはず。田邊教授もまた、仲間にすべき存在だったのである。このままでは両者ともに、自己実現の道は閉ざされることになるだろう。いま必要なのはお互いに対するリスペクトなのではないだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK