『キングダム 運命の炎』は“時代”を映し出す“現在の映画”に 今後のシリーズの行方は?
紀元前の中国で、無数の国が鎬を削って領土を奪い合った、群雄割拠の春秋戦国時代。その末期の戦いが描かれる同名漫画を原作にした、日本の実写映画シリーズが『キングダム』だ。その第3作となる『キングダム 運命の炎』が、前作から約1年という短いブランクで公開された。日本映画としては規格外の予算規模を誇るシリーズだけに、このラッシュは驚きである。
ここでは、そんな『キングダム 運命の炎』の内容を見ていきながら、そこに何が反映されているのか、今後シリーズがどうなっていくのかを考えていきたい。
実写映画『キングダム』シリーズが、なぜそれほど予算が必要になってしまうのかといえば、もちろん描かれるスケールの大きさが尋常ではないからだ。古代中国の王宮や城、人々の暮らしや戦争を表現するための1000人規模のエキストラや大掛かりなセット、CGなどのVFXによる膨大な作業量、そして豪華な出演陣を揃えるなど、とにかく圧倒的な物量がなければ、一定以上のクオリティでの実写化は困難なのだ。
だからこそ、この漫画原作を実写化するのは、日本映画界では現実的に無理だと考えられていた。そんな常識をぶち壊し、実際に物量を投入することで映像化を果たしたのが、第1作『キングダム』(2019年)だった。この賭けは成功し、莫大な製作費に見合う興行収入を達成し、数々の映画賞を獲得するなど、高い評価を得る結果となった。
そして、続く第2作『キングダム2 遥かなる大地へ』では、ついにどこまでも広がる平原、荒野で、二つの勢力が大規模な陣を敷き、展開するといった本格的な合戦が描かれるまでに至った。そのラストシーンは、「天下の大将軍」を目指して成長する主人公・信(山﨑賢人)が、秦国の大将軍・王騎(大沢たかお)の住む城に出向き、教えを乞おうとするものだった。
本作『キングダム 運命の炎』が描くのは、その後の話。王騎の指示により秦王国内に存在する無国籍地帯を“平定”し、大将軍への険しい道をまた一歩進んだ信は、前作までの武功をもって百人の兵を指揮する「百人将」として、秦国防衛の総大将に任ぜられた王騎とともに、趙国からの侵略に立ち向かうことになる。
今回は、その戦い「馬陽の戦い」と、吉沢亮演じる秦国の王・嬴政(えいせい)の過去が明らかとなる「紫夏(しか)編」が描かれることになる。「紫夏編」で強い印象を放つのは、やはり闇商人の頭目である紫夏(杏)だろう。意志と胆力の強さ、そして優しさを併せ持つ女性キャラクターである紫夏を、ときに毅然と、ときに温かく演じる杏の演技が見事で、そんな力強さと思いやりが、中華の王となっていく嬴政の精神的な支柱となる流れに説得力を与えている。
原作と異なるのは、嬴政自身が語るこのエピソードを、王騎と信が直に聞いているという、オリジナルの描写だ。この改変は、紫夏の精神を土台とした嬴政の覚悟に、王騎と信が心動かされる流れを作ることで、おそらくはこの後の展開をより劇的なものにし、それぞれの戦いへの動機をより強いものにする意図があると想像できる。